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「女子は獲れない」を見返したいと…村上茉愛、天才体操少女が大人になったとき「大学1年がターニングポイントでした」
posted2021/08/02 20:15
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
Masamitsu Magome
ニューヒロインの誕生は鮮やかだった。昨年10月にカナダで行なわれた世界体操選手権。女子の花形種目である「ゆか」で世界の強豪たちを退けて初の金メダルに輝いたのは、村上茉愛だった。
日本の女子が金メダルを獲得したのは63年ぶりにして史上わずか2人目。当然ながらこれだけで十分に快挙である。しかし、今回の金の価値はそれだけにとどまらない。なぜなら、「ゆかは苦手」という日本女子のイメージを覆す、パワフルなアクロバットで頂点に立ったからだ。カナダでの村上はH難度の大技「シリバス(後方抱え込み2回宙返り2回ひねり)」で大観衆をとりこにしていた。
それから約半年。日体大の体育館で会った村上は、次のターゲットである「個人総合」という目標に向かってすでに走り出していた。4月から4年生。体操競技部では女子の新キャプテンに就任している。
「研究した選手の圧力に負けたというか」
「大学入学後は、成績が悪かったり、その後に良くなったり。すごく早かったです」
明るい表情に、駆け抜けてきた時間の充実ぶりがにじみ出る。その言葉通り、2015年から昨年までの3年間に収めてきた成績は右肩上がりだった。だが、そこに至るまでの道のりは決して平坦ではなかった。
初めて世界選手権に出場したのは'13年、高校2年生のときだ。小学校6年生で「シリバス」に成功し、天才少女として知られていた村上は、初出場ながら種目別ゆかの優勝候補として大会に臨み、会心の演技をした。ところが、上には上がいた。村上は健闘したものの、4位だった。
「デビュー戦だから怖いものはなかったのですが、結果的にはそれまで世界で戦っていた選手がメダルを獲った印象でした。テレビで見たり、動画サイトで見て研究していた選手の圧力に負けたというか……」