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国際試合では超重要! 甲斐拓也の「初見の投手」も攻略できる“捕手脳”と“瞬時の切り替え”<9番打者がキーマンに>
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byGetty Images
posted2021/08/01 11:04
2番手で登板し、2回を無失点に抑えた伊藤大海(左)とグータッチする甲斐。リードだけでなく打撃でも活躍を見せている
甲斐の捕手脳が見事に発揮された
だから思い切って、自分の中でどういう打撃をするかを決めることが大事なのだ。どう狙いを絞って、どういうスイングをするのか。そこで捕手としての思考回路が生きてくる。
4回の左前安打はそんな甲斐の捕手脳が見事に発揮されたものだった。
1死一塁。走者を進めるためには右方向が求められる打席だ。もちろんその意識で打席に入り、2球目の外角ストレートを右翼線にファウル。さらに3球目にはセーフティーバントを試みるなど投手を揺さぶる。そしてカウント2ボール2ストライクからだ。ランエンドヒットのサインが出ると、すかさず打撃を切り替えた。遊撃手がベースカバーに入って三遊間が開くことを計算して、インコースに食い込むツーシームをしっかり引っ張り、左前へと打ち返した。
基本の打球はセンター中心の逆方向。しかし右ばかりを狙っているかと思えば、続く第3打席でも結果は三ゴロになったが、一発を狙うように強引に引っぱるスイングも見せる。昨年の巨人との日本シリーズで、第2戦と第4戦にいずれも甘く入った真っ直ぐを左翼席まで運んだスイングを彷彿とさせた。カウントや状況でこういうスイングもできるところが、捕手脳を持つ打者・甲斐拓也が短期決戦で意外性を発揮できる秘密でもある。
しっかりと配球を読んだ決め打ちは、データの少ない国際試合では1つのお手本となる打撃かもしれない。逆に言えば五輪という舞台で甲斐が、ラッキーボーイ的な打者へと浮上してきた背景には、なるべくしてなった根拠があるということなのだ。
「とにかくその打席、その打席でしっかりやるべきことを1つ1つ、一瞬、一瞬にできればと思っています。今日の3安打は次のゲームでは関係ない。終わったことですから」
試合後の甲斐はこう語ったが、侍ジャパンにとってはこのラッキーボーイの出現は金メダルへの大きな好材料となるはずだ。
米国との激突が決まった準々決勝でも、侍打線の9番から目が離せない。