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監督交代は意味がない!? 50年間の統計では「効果は何もない」という結論も、その成否を分ける決定的な要素とは?
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2021/07/31 17:00
30年ぶりに降格した降格したシャルケ。4度の監督交代も効果を発揮しなかった
ドイツサッカー協会専任アナリストのシュテファン・ノップが、根源的な問題について問いかけていたことを思い出す。
「ゴールチャンスとは何でしょう? そして、ゴールとは作り出したゴールチャンスからのみ生まれるものでしょうか?」
サッカーの試合では様々なことが起こる。相手の守備をうまく崩し、狙い通りの形でチャンスを作っても決めきれないことなんて、世界中のどんなチームでも起こりえる。
逆にかつてのズラタン・イブラヒモビッチのように30メートル以上離れた位置から放たれたオーバーヘッドキックが決まることもある。そんな思い切ったチャレンジで得点の可能性を手繰り寄せることも重要になる。
空気感を変えることに成功したとしても……
明確なプランを持って試合に臨み、狙い通りにチャンスを作り、ゲームをコントロールできているかどうか。そして、どんな局面からでもあわよくばゴールを狙うという意外性を持ち合わせているかどうか。守備で言えば、ピンチを回避するプランが整理されていて、相手の予想外の動きにも柔軟に対処できるような準備ができているかどうか。
そうした点では、ドイツのチュービンゲン大学心理学教授のオリバー・ヘーナーによる『サッカーにおける認知ファクターの意味』という講演が興味深かった。
「試合中にミスが起きたときや、うまくいっていないときに、指導者の皆さんは『簡単にプレーしろ!』と言われますよね。でも、最適なプレーを決断するためには試合・練習を通して様々な優先順位があるプレーの原則を学び、戦術を身につけなければなりません。指導者はその瞬間だけではなく、次に起こりえる状況を論理的に予測できるように導き、認知-判断-決断-実行のプロセス精度を高めていくことが求められるのです」
つまり、意図も狙いもなく、状況に応じた判断要求が曖昧で、選手任せにするようなら、いつまで経っても意図的に「簡単なプレー」などできるはずもない。
新監督が空気感を変えることに成功したとしても、そこが整理されないままでは、同じように失敗の道を進むことになってしまう。
そう考えると、首脳陣がどこまで現有戦力を理解し、監督が示そうとする方向性を共有し、そのなかで現在の立ち位置を的確に分析しているかどうかが、監督交代の判断の決定的な要素と言える。
そうした流れを可能にする人材こそが、長期的にクラブを支えていくためには何よりも大切なのだ。
いずれにしても、監督交代をただの起爆剤に使うのは賢明な判断ではない。