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W杯予選で不正の恐れ…アフリカ大陸で横行する「PCR検査結果捏造」の闇<CAFアフリカサッカー連盟は沈黙>

posted2021/08/01 17:00

 
W杯予選で不正の恐れ…アフリカ大陸で横行する「PCR検査結果捏造」の闇<CAFアフリカサッカー連盟は沈黙><Number Web> photograph by L’Équipe

中央アフリカへの遠征時、PCR検査で4人が陽性判定されたモーリタニア代表。再検査の結果は全員陰性だった

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フランク・シモン

フランク・シモンFrank Simon

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 たとえば東京五輪で、日本選手がメダルを量産するために、ライバル国の選手たちのPCR検査結果を意図的に操作する。常識的な日本人はそんな発想に思い至らないし、実際にそんな操作がおこなわれることなど考えられない。

 もちろん五輪に限らず他のスポーツやスポーツ以外の分野も同じで、コロナ禍は国をあげて乗り越えるべき惨禍であり、それを悪用する組織犯罪は日本ではいまだ起こっていない、ように思う。国民感情を逆なでにしてまで、自らの利益を不正に追求することを躊躇わせる雰囲気が今の日本社会にはある。コロナはそれほど日本にとって深刻な問題であり続けている。

 だが、国や環境が変われば、人々の意識もまた異なる。コロナ禍の深刻度が低いところほど、それを悪用しようとする気持ちも働くのだろう。この数カ月というもの、アフリカではクラブやナショナルチームが対戦相手の力を弱体化するために、試合前日のPCR検査の結果を捏造するという、看過しえない流れが生まれようとしている。

『フランス・フットボール』誌4月20日発売号でフランク・シモン記者がレポートしているのは、そんなアフリカの現実である。同じことは、アフリカ以外の地域でも起こっている懸念が生じるが……。

(田村修一)

 ベナン共和国の首都コトノウでは、ひとつの通説が真実として定着している。ベナン代表が、シエラレオネが仕掛けた奸策に嵌められてしまったと。3月30日におこなわれる予定だったフリータウン(シエラレオネの首都)でのシエラレオネ対ベナン戦は、コロナ禍の影響で開催が2022年に延期された第33回アフリカネーションズカップ(=CAN。カメルーン開催)の、24枚目のチケットを争う大一番であった。

 その数日前、勝ち点1を獲得すれば予選を突破できるベナンは、ホームにナイジェリアを迎えたゲームのアディショナルタイムに失点を喫し、0対1と敗れてチケットを獲得できなかった。

PCR検査陽性反応の通知

 30日午後2時、フランス人監督ミシェル・デュスイエに率いられたベナン代表は、スタジアムに向かうため車でホテルを出発した。ところが彼らは、スタジアムの駐車場で足止めを食らい中に入ることができなかった。見せられたのは、ベナンの5人の中軸選手(カレド・アデノンとジョエル・ドスー、サトゥルナン・アラグベ、スティーブ・ムーニエ、セドリック・フーントンジ)が、PCR検査で陽性反応を示したと記された手書きの書類だった。5人のうち2人は、すでにコロナに感染しているという。同じときにベナンのスポーツ大臣を務めるオズワルド・ホームキーと協会会長のマツラン・ドシャクスは、シエラレオネのドクターからキックオフは4時間遅れになると告げられた。

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