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GI競走で誘導していたあの人が…JRA職員3人が東京五輪で《総合馬術・馬場馬術》に挑む “会社員”ならではの葛藤を超えて
text by
カジリョウスケRyosuke Kaji
photograph byRyosuke KAJI
posted2021/07/23 11:00
2019年に行われたテストイベントで東京のコースを走る戸本一真
佐渡は自分がどうなりたいのか言葉にできるようになり、『自分がこうするんだ』という気持ちを行動に表せるようになった。毎日のトレーニングで、試合で、そしてオリンピックで、自分の『やりたいこと』に対してマネジメントしていけるようになった。伝えることで相手も認めてくれ、一生懸命応えようとしてくれる。日本人とヨーロッパ人、トレーナーとライダーという枠を超え、一人の人として向き合い、高め合う関係性を築くことができた。
フロリダで掴んだ『馬の体勢をまとめる技術』
ティネケやイムケのサポートを得たことで着実に佐渡は成長を感じていた。特に2020年、アメリカ合衆国のフロリダ州に遠征した時だった。毎週のように国際大会が行われる競技場に滞在し、夏のオリンピックに向けて弾みをつけようとしていた。ここで佐渡は70.717%の成績を残す。それまでの日本人選手では60%台、良い結果が出て60台後半がやっとだった。この時、佐渡はある“手応え”を掴んだという。
「言葉では簡単に言い表せないんですが、強いて言えば『馬の体勢をまとめる技術』。そのポイントを維持した演技で全体を通すことで70%を超えられる感触を得ました」
このとき得た感覚を他の馬にも試したところすぐに70%超えの結果がついてきた。手応えが確信に変わった。この頃から時を経るごとに佐渡の演技は美しさに磨きがかかっているように見えた。馬が積極的に動いてくれるようになれば、乗り手はオーバーなアクションで合図をしなくていい。乗り方が安定すれば馬の動きもさらに良くなる。そうやって、全体にまとまりができ、見える形となって成績にも現れてきたのだ。
支えてくれた馬や人への恩返し
7年分の重みはたくさんの人への感謝にもつながっている。ずっと支えてくれた家族をはじめとして、同僚や馬事公苑で一緒に働いていた人たちにも。
「オリンピックへの出場が決まると馬事公苑で一緒に働いていた人たちからたくさんの応援の声をいただいて。この場所で出会った人たちとの繋がりが自分の力になっていることを感じました。だからこそ、馬事公苑で良い演技をすることでみんなに喜んでもらいたい。新しい馬事公苑でいい再出発ができるようにしたい。それが今まで支えてくれた人、馬への何よりの恩返しだと思っています」