サッカー日本代表PRESSBACK NUMBER
五輪代表“ビースト”林大地の「反転」は柔道着トレ効果? ゴン中山、ドラゴン久保も習った、忍者由来の“夏嶋流突破術”とは
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph by7044/AFLO
posted2021/07/16 11:05
3月のアルゼンチン戦でゴールを決めるなど、猛アピールの末に東京五輪メンバー入りを果たしたFW林大地
かつて中山雅志や久保竜彦などを指導した夏嶋は、人体の構造を知り尽くした知る人ぞ知るトレーナーでもあり、噂を聞きつけたアスリートたちが教えを請いに日参する。
筆者も静岡県三島市郊外の施術所に足を運んだが、思いもよらない展開となった。なんと、8時間ぶっ通しで話を聞くことになったからだ。
8時間のロングランになったのも、無理はない。
夏嶋の指導は日本由来の古武道や忍術などの影響が色濃く、サッカーの動きを説明する中で「渡辺俊経家文書――尾張藩甲賀者関係史料――」という分厚い文書を持ち出してきた。
これは忍者の里として知られる滋賀県甲賀市の、忍者の末裔の家から出てきた古文書をまとめたもの。夜襲の方法や毒薬の調合から年貢の納め方にいたるまで、忍者の暮らしにまつわるあらゆる事柄が詳細に記されている。
この中には、敵味方が入り乱れる狭い場所での動き方が記されていて、ペナルティエリアでの動きに生かすことができるという。
キザミ足、イヌ走り、キツネ走り、大足、小足走りなど計14種にも及ぶ走法を手取り足取り教わるうち、気がついたら日が暮れていた。
柔道着を着ての1対1も、もちろん教わった。
身体の使い方は非常に細かく感覚的なものなので、実際にやらなければわからないからだ。
混乱して帰るアスリートも少なくない
ただ、一度やれば習得できるわけでもない。
取材の翌日、筆者は得意満面で友人に受け売りをしようとしたが、動きをまったく再現できないことに愕然とした。
無理もない。新しい動きを身につけるには、センスと努力が欠かせないからだ。夏嶋の評判を聞きつけて、三島にやってくるアスリートにも、逆に頭が混乱して帰っていくケースが少なくないという。
ローマは一日にしてならず。ひとつの技術を会得するには、手間ひまがかかるのだ。
夏嶋流突破術を継承することで、林はオリンピックに到達した。
だが、本番はこれからだ。日本代表がいつもそうであるように、東京オリンピック代表もまた攻撃の主導権は2列目、とくに堂安律と久保建英が握る。“定数1”のフォワードは使われる立場。その中で自分の強み、得意の型を理解してもらわなければならない。
林のスタイルは、いわゆる日本のパスサッカーと相性がいいとはいえないが、押し込まれるような展開では、そのキャラクターが生きてくるかもしれない。
サポートが手薄な中、ひとりで身体を張り、ひとりでゴールをこじ開ける。ビーストが大舞台で本領を発揮したとき、あっさりした日本の最前線は変わり始めるのかもしれない。