進取の将棋BACK NUMBER
藤井聡太二冠が渡辺明名人に強く、豊島将之竜王に“大きく負け越し”のナゾ 中村太地七段に「棋士の相性」ってあるのか聞いた
text by
中村太地Taichi Nakamura
photograph byKyodo News
posted2021/07/13 11:01
王位戦第1局前の豊島将之竜王と藤井聡太二冠。渡辺明名人を含めた対戦成績は興味深い内容となっている
持ち時間の使い方もその一例でしょうか。早指しでドンドン来る人……代表的な人で言えば糸谷(哲郎)八段ですが、私は時に「もう全ての手を見透かされてるんじゃないか」と感じるくらいですね(笑)。ただし早指しタイプの棋士は、丁寧に読んで受けるタイプに弱かったりもする。そこが勝負の面白さとも言えますが。
渡辺-藤井の関係をマラソンにたとえてみると
そういった要素がある中で、渡辺名人、豊島竜王、藤井二冠の関係について考えていきましょう。
まずは渡辺名人-藤井二冠の関係と、2人の特徴から。
渡辺名人の将棋というのは判断力が優れていて、局面を速く正確に捉える能力が非常に高い。そして終盤でのスピード勝負が得意です。また奇をてらった手というのはあまり指さず、勝ち味が薄い粘り方はしないという棋風を感じます。
その一方で藤井二冠は、前編で説明した通り――ここ最近は研究でも実力を発揮されていますが、真っ向勝負できる終盤力が最大の特徴です。まさに棋聖戦第2、第3局は、渡辺名人をも凌駕するような展開でした。
藤井二冠から見ると……表現が難しいのですが、渡辺名人との対局は「好きな展開」の将棋になりやすい点はあるのかなと感じます。それは渡辺名人の判断力が優れていて、きれいな手や展開で進めるからこそ、なのではないかと推察します。言い換えれば渡辺名人のベースが素晴らしく高いからこそとも言えます。
将棋は序盤、中盤、終盤という3つの状況があります。ただ中盤→終盤と進んだかと思いきや、囲いに金銀を埋めたり、飛車角を自陣に打つなど、また中盤に戻る展開が往々にしてあります。でも渡辺-藤井戦では、局面が逆戻りするような展開は少ない。
端的に言うと、お互いがどんどん前に進んでいく将棋――マラソンにたとえれば、素晴らしい実力のランナーが2人、暑くもなく寒くもない最高のコンディションで、最高の状態で走り合っている。お互いが素晴らしいペースで走る中、終盤のスパート力を持っている藤井さんが、さらにスピードで伸びるような印象でしょうか。そのため、棋譜を見ると勝敗を超えて非常に興味深く、ハイレベルだと感じ入ることが多いのです。
豊島-藤井の対局では何が起きている?
では、豊島竜王-藤井二冠の対局はどうなのか。