甲子園の風BACK NUMBER
〈春の県大会ベスト4〉“東大合格23人”水戸一高が1日練習2時間半で目指す甲子園「野球をやっているから勉強は疎かでいい、とは…」
text by
清水岳志Takeshi Shimizu
photograph byTakeshi Shimizu
posted2021/07/13 06:00
水戸一の練習の様子。部員自ら練習メニューを考えているという
船橋さんが付け加える。
「勝った負けたではない。鍛錬して成長すること。在校当時には感じきれていませんでしたが卒業して、社会人になって実感できること」
『至誠一貫』という校是がある。真摯に誠を貫けば願いは必ず報われる。“一球入魂”は校是からきているのだと思う。木村監督が覚悟を話す。
「本校は飛田先生の教えを受け継ぎながらやっていかなければいけないと思います。一球入魂を意識してチーム作りをやっていく必要がある。変わってはいけないもの、大事な部分は残しながら、時代に即して変えていくことも求められている、と感じます」
コロナ禍にあって生徒に教える時間がなかなかないと監督は嘆く。だが、思想は揺ぎない。
「今のチームも、彼らができることの徹底ですよね。できないことをやらせるよりも、できることの精度を上げる。同じところを目指してると思います」
エースは「もとから私立は強いと思っていない」
春のベスト4の原動力になった石井陽向投手。サイドハンドからキレのいいボールを投げる。変化球の球種は「7種類」持っているという。
「もとから私立は強いと思っていないんで。同じ高校生という印象です。常総(学院)とやってみたい」
若い心意気は心地よく、矜持が伝わった。そんなエースのボールを受けるのは、水戸一に運命を感じた主将の堺堀捕手だ。ただ彼には新チームが始まって腑に落ちないことがあった。野球部はなぜ、坊主頭なのか。
「意味もなく、なんとなくのしきたりで短くしているなら、人が考えるという根本的な行為を放棄しているんじゃないかと思いました」
そう、監督に言ったそうだ。
監督が答える。
「自由をどう、お考えですかと言われて。坊主頭の理由を私もうまく説明できなくて(笑)。単なる形骸化なら良くない。髪を伸ばすことでいろんな見方をされたり、より責任を問われるので自覚しなさいと。礼儀とか場に合わせるとか、本質をしっかり考えたい」
伝統の理念も変化しないと時代に取り残される
伝統の理念も変化しないと時代に取り残される。髪型だけではなく、一球入魂しかりだろう。学生の自主自立。校風は健在だ。最後に監督が締めくくった。
「うちが頑張ることで喜ぶ人が増えてくれれば嬉しい。部員も増えて欲しいですし。僕が水戸、茨城が好きなんで。夏は伝統の応援があるんです。藁巻きの納豆を持って“それ、粘れ”って」
大河の劇中、徳川斉昭、一橋慶喜が仲間を鼓舞する印象的な場面がある。
「快なり、快なり」
令和の水戸一ナインにもそんなシーンが重なった。