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「マラソンにドラマなんて必要ないんだ」大迫傑(30歳)に“2カ月密着トレ”した新世代ランナーが痛感したこと
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byShota Matsumoto
posted2021/07/08 17:03
アリゾナ州フラッグスタッフでの大迫傑の合宿に参加した吉田祐也(左)。右は大迫の練習パートナー、川崎友輝
「ぜんぜん違います。僕から見れば、大迫さんは平地で僕がやる1.5倍の量のメニューを、2100mの高地でやっているんです。正直、僕と大迫さんとでは格が違います」
吉田にとって初めての高地合宿だったが、想像以上に高地順応に苦しんだという。
「まだ高地に慣れていない段階では、大迫さんから『60%から70%くらいでやった方がいいよ』とアドバイスを受けたんですが、最初はジョグさえまともに出来ませんでした。ずっと貧血のような状態で、つらかったですね」
月間1000km以上…大迫さんは実行力がハンパない
環境に慣れ、練習を重ねていくと、大迫の練習のエッセンスが吉田にも見えてきた。
「メディアやSNSから受ける大迫さんの印象はとんがった感じが強いかもしれませんが、練習メニューはとてもバランスが取れていました。ウィークデイにスピード系のトレーニングを入れ、週末に距離走を入れる形です」
メニューはオーソドックスでも、中身が濃かった。平地でもつらいタイム設定を、大迫は2100mの高地でこなしていく。
「具体的な設定タイムやレスト時間は省かせてもらいますが、僕がいちばんきつかった練習は1マイルのインターバル走で、そのポイント練習の翌日は発熱したほどです。よくよく考えてみたら、大迫さんは何年にもわたって、こんな厳しいメニューをたったひとりでこなしてきたということ。そう思うと、愕然としました。しかも、地道な練習も欠かさない。
大迫さんは科学的、合理性を重視しているので、あまり距離を踏んでいないイメージを持つ人がいるかもしれませんが、月間で1000km以上は走っていると思います。大学のような集団練習でもきついのに、ひとりで練習をやり切る覚悟、実行力がハンパないです」
ただし、練習以外のところでは極めてリラックスしていて、メリハリが利いている印象を持ったという。
「食事も制限はないようでしたし、練習以外の時間も大切にしている感じでした。いろいろな意味でバランスが取れている印象です」
「24歳で大迫さんを目指せて、幸せじゃん」
この合宿を通して、吉田は期せずして、オリンピックに向かって準備する大迫と時間を共にしたことになった。
「正直、こちらとしては気を使った面もあります。自分の体調が悪くなっては迷惑をかけますから。それでも、大迫さんはピリピリすることなく、普段通りの練習をこなしていて、練習で一喜一憂しないのも印象的でした。感情の揺れが少なく、オリンピックといえども、他の大会と一緒のアプローチなんだと思います」
吉田は大迫から多くのヒントを得たと振り返る。