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「マラソンにドラマなんて必要ないんだ」大迫傑(30歳)に“2カ月密着トレ”した新世代ランナーが痛感したこと 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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photograph byShota Matsumoto

posted2021/07/08 17:03

「マラソンにドラマなんて必要ないんだ」大迫傑(30歳)に“2カ月密着トレ”した新世代ランナーが痛感したこと<Number Web> photograph by Shota Matsumoto

アリゾナ州フラッグスタッフでの大迫傑の合宿に参加した吉田祐也(左)。右は大迫の練習パートナー、川崎友輝

「大迫さんからは『焦らないでね』とアドバイスをいただきました。大学時代から各自ジョグで30kmは普通に走っていたせいか、『ロングランはきっちり出来ているよね』と評価していただいたんですが、スピード練習やワークアウトに関しては、質、量ともに上げていかないことには、とてもじゃないですが、世界とは戦えないレベルということを痛感しました。でも、いきなりレベルを上げていくことは無理です。大迫さんは高地トレーニングに取り組み始めてから6年ほど経っていますし、自分も2、3年かけて平地での質と量を充実させ、高地でハードなトレーニングが出来るように準備していきたいと思います」

 吉田にとって、今回の最大の収穫は「気づき」だったという。今回の合宿では、大迫の練習パートナーとして青学大のOBでプロランナーの川崎友輝(29歳)も参加していたが、川崎は吉田にこう話したという。

「大迫さんと一緒に練習してみて、気づいたことはたくさんある。でも、俺のように28歳、29歳で必要なことに気づいても、もう手遅れ。でも、祐也は24歳で大迫さんの『基準』を目指して練習できるんだから、幸せじゃん」

「マラソンにドラマは必要ない」

 吉田は自分を受け入れてくれた大迫の度量にも感謝している。

「大迫さんからは、日本の選手たちは挑戦することに対して晩生(おくて)になっているように見えるそうです。海外で練習、経験を積めば、大きな器になれる可能性があるのだから、飛び込んできて欲しいと。大迫さんも渡米当初は、言葉も分からないし、練習場所を間違えたり、メニューのことを勘違いしてしまったこともあったそうですが、そうした経験も自分の幅を広げることにつながったようで、次の世代につなげていくことを考えていましたね」

 今後、吉田は一段高い練習メニューに取り組みながら、2024年のパリ・オリンピック代表を目指していくことになるが、大迫と話していくなかで「過程」と「結果」にこだわることが重要だと思い至った。

「大迫さんは、レースにドラマは必要なくて、マラソンは過程と結果がすべてだと。努力すべきはドラマを作ることではなく、目標を達成するために過程を重視していくこと。最終的に『これで結果が出なかったらおかしい』と思えるほど、努力していくことが必要なんだと思いました」

 8月8日、札幌で行われる予定のオリンピックの男子マラソンで、大迫傑がどんなレースを見せるのか。ともにアメリカのアスファルトの上を走った吉田の話を聞くと期待が膨らんでくる。

 そして大迫の走りが、日本の次の世代に大きな影響を与えることもまた、確実なようである。

発売中のNumber1030号「走る」では、大迫や吉田らの合宿に密着したカメラマン松本昇大氏の写真と文章で、大迫傑の記事「厳しくも、当たり前の日々の中で」を掲載。東京五輪を前に、日本から遠く離れた地でひとり研鑽を続けつつも、時にリラックスした時間を送る日本長距離界のエースに独占密着した貴重なドキュメントだ。

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