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「腹立たしいんですよ」“2021年のUWF”は殺伐とした対抗戦に 佐藤光留はなぜ田村潔司に激怒したのか? 

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph byNorihiro Hashimoto

posted2021/06/17 12:07

「腹立たしいんですよ」“2021年のUWF”は殺伐とした対抗戦に 佐藤光留はなぜ田村潔司に激怒したのか?<Number Web> photograph by Norihiro Hashimoto

佐藤光留率いるハードヒットは“U復興”を謳うLIDET UWFの登場に怒りを隠さない

佐藤光留の考える「現在進行形のU」とは

 佐藤はパンクラスでデビュー。師匠である鈴木みのるを追うように“純プロレス”に進出するまではオープンフィンガーグローブをつけ、パンクラスで総合格闘技を(プロレスラーとして)闘ってきた。そこで得たつながりがハードヒットにも活かされている。

 今はDDTで活躍する坂口征夫がプロレスの試合を始めたのはハードヒットからだ。元修斗世界王者で、のちに格闘技イベントZSTのプロデューサー、かつガンバレ☆プロレスのプロレスラーになる勝村周一朗も、ハードヒットがプロレスの入り口だった。日本重量級トップの柔術家である関根シュレック秀樹は、学生時代Uインター入門を目指していたが、団体解散により仕方なく警察官になったという。ハードヒットのリングに上がり、憧れたゲイリー・オブライトばりのジャーマンスープレックスで勝った彼は、夢が叶ったと泣いた。

 格闘家たちによる“U系”プロレスは、滑らかで鮮やかとは言い難い部分もある。ただ彼らは、これまでのプロレスにはなかったテクニックを持ち込むという役割も果たした。回転しながら足に絡みつくイマナリロール、ここ数年の足関節技のトレンドであるサドルロックなど、プロレスではハードヒットから出てきた選手たちしか見せないようなテクニックもある。かつて前田や佐山がシーザー武志(シュートボクシング)から打撃を習い、ロシアの格闘技サンボの関節技を取り入れたように、ハードヒットもプロレスの攻防をアップデートさせたのだ。それが、佐藤光留の考える「現在進行形のU」だった。

“U復興”を謳うLIDET UWFに佐藤たちは

 メジャーな人気選手は出ていない。会場も小さい。けれど熱心なファンを集め、必死に理想を追ってきた。そこに突然GLEAT、LIDET UWFが現れて“U復興”を謳う。佐藤たちにしてみればたまったものではなかった。SNSでも容赦なく怒りを露わにした。ほどなくして対抗戦が決まる。GLEATはGLEATで、軽々しくUWFを名乗ったつもりはなかった。

 6月9日、LIDET UWFの新宿FACE大会で、ハードヒットの対抗戦は行なわれた。配信での「実験マッチ」はあったものの、GLEAT勢はこのスタイルに不慣れな選手が多い。5試合闘って、結果は3勝1敗1分とハードヒットの圧勝となった。

 初戦は佐藤光留vsカズ・ハヤシ。みちのくプロレスから米メジャー、全日本プロレスを経てWRESTLE-1では社長も務めた48歳のベテランがUWFスタイルに挑むのは、それだけで価値があることだった。だが当然、力の差はある。通常のプロレスならハヤシ有利のはずだが、ここでは佐藤が42秒でフロントチョークを極めた。ファーストコンタクトのミドルキックからダウンを奪った掌底の右フック、フィニッシュまで、佐藤の殺気は凄まじいものだった。試合後も興奮が収まらない佐藤は、インタビュースペースで「時計の針は動いてんだよ。俺たちは生き残ってきたんだよ!」と吠えた。

【次ページ】 「しょっぱい相手とやらせんな」

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