濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「腹立たしいんですよ」“2021年のUWF”は殺伐とした対抗戦に 佐藤光留はなぜ田村潔司に激怒したのか?
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2021/06/17 12:07
佐藤光留率いるハードヒットは“U復興”を謳うLIDET UWFの登場に怒りを隠さない
「その余裕が腹立たしいんですよ」
大会後、そのままネット配信のトーク番組に出演した佐藤は、田村の総評にも噛み付いた。
「佐藤光留には佐藤光留のUがある。それを貫き通してもらって、僕は僕のUを貫いて。また何年後かに対抗戦ができれば」
田村の“大人”なコメントが、佐藤は気に入らなかった。「その余裕が腹立たしいんですよ」。U系のレジェンドが立ち上げたLIDET UWFに本気で立ち向かっているのに、大人の余裕でいなすのか。大会翌日にはツイッターにこう書いた。
〈昨日の試合を評価するのは100%「見たお客さん」で、我々は田村潔司選手の総評を聞き入れる事は一切無い。田村さんの言葉は強い。だが、それだけが「U」じゃない〉
大会の最後に田村が総評コメントをしたら、マスコミは当然それを取り上げる。ファンはそれが大会の絶対的評価だと思い込むかもしれない。佐藤はそこにも反発したのだろう。田村は何度も「GLEATの選手に関しては」と前置きしながら語っていたのだが、その配慮がまた癪だったのかもしれない。ハードヒットは田村が表舞台で活動していない時期にも“U”を続け、前進させてきた。その自負があるからなおさらだ。
そうなるのも“U”だからか。主張をぶつけ、感情がこじれ、それをさらけ出した果てにUWFは3派に分かれた。以前、佐藤にUWFのどこに惹かれたのかと聞くと、ファイトスタイルだけでなく「選手がみんな跳ねっ返りなところ」だと答えた。彼にとって、すべてを認め合う大人の態度は“U”ではないのだ。
「佐藤光留と闘いたいなどと、二度と抜かすな」
さらに佐藤は、メインで勝った伊藤からの対戦要求をはねつけている。理由は伊藤の試合後のツイートだ。
〈しかし顔面ボッコボコやわ…川村亮…(中略)今日はゆっくり休ましてくれ〉
敗れた川村を称えているわけだ。しかし佐藤はこう返した。
〈「今日は休ましてくれ」は本気でガッカリだった。お前が対抗したハードヒットの長は、お前が寝ている間に生放送で振り返りをしている。明日も6時起きで練習。それを続けてきた。佐藤光留と闘いたいなどと、二度と抜かすな〉
試合を終えた夜に休むのは普通のことだ。適切な休養はスポーツ選手に不可欠と言ってもいい。佐藤の言い分はまったく理屈が通っておらず、しかし理屈抜きだからこそプロレスラーとしてのカッコよさも感じさせるのだった。メチャクチャなスケジュールで練習し、試合をして、彼は「生き残ってきた」のだ。
完全にやり込められた伊藤。しかし彼には“かつての佐藤光留”を感じる部分もある。佐藤もさんざん悔しい思いをしてきたのだ。ハードヒットを始めるきっかけの1つは、金原弘光(Uインター、リングスで活躍)の自主興行『U-SPIRITS』の第1回大会に呼ばれなかったことだった。その日、佐藤は会場ロビーで、メインに出場した鈴木みのるのグッズ売店を担当していた。
ハードヒットを始めても、なかなか注目されなかった。専門誌が取材に来ないことも多い。その悔しさから、佐藤は自分のUを続け、実力と思想と言葉を磨いてきた。伊藤もここからだ。田村に向いている佐藤の目を、自分に向けさせなくてはいけない。伊藤は伊藤の“U”を自分で見つけなくてはいけない。