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セリエA全チームが採用! リアルタイム解析でサッカーの戦術に革新をもたらす「バーチャルコーチ」の真価
posted2021/06/10 17:00
text by
バレンティン・パウルッツィValentin Pauluzzi
photograph by
L’Équipe
「バーチャルコーチ」という戦術ソフトウェアをセリエAでは1年前から導入している。試合の映像をリアルタイムでトラッキングするだけでなくデータを解析処理してその場で問題解決のアドバイスを与える画期的なソフトだ。その出現自体は昨今の状況を鑑みれば十分予測できることであったが、驚くべきはセリエAがリーグとして公式に導入したことだった。監督はバーチャルコーチが提供するデータやアドバイスにより、目の前で展開しているゲームの判断――戦術の修正や選手交代など――を下すことができる。いったいこれは何を意味するのか。
『フランス・フットボール』誌3月21日号でバレンティン・パウルッツィ記者が、バーチャルコーチ導入1年後の現実をレポートしている。サッカーもやがては囲碁や将棋、チェスのように人間がAIに勝てなくなり、主従関係が逆転して監督はAIの指示するままに戦術を決めるようになる。バーチャルコーチはその第一歩なのだろうか……。
(田村修一)
セリエAの監督が「バーチャルコーチ」を利用するようになって1年が過ぎた。
バーチャルコーチとは、実質プレー時間における試合のスタッツを分析し、戦術的な調整を示唆するタブレット用のツール。サッカーにおける戦術概念を変えるかもしれないこのツールは、現実にどう使われているのだろうか。
数学者が解きほぐしたサッカーの事象
レガ・セリエAにとって、サッカーの真の見識ともいうべき監督たちの戦術文化に貢献するのは、誇りであり喜びでもある。バーチャルコーチというアプリケーションが、これまでセリエAの試合で解きほぐせなかったさまざまな問題を解決するための手段を提供している。このアプリは、ボビサ地区にあるミラノ工科大学のキャンパス――机やコンピュータで溢れかえるオープンスペースで生み出された。開発に関わった32歳の数学者ジルベルト・パストレッラは次のように説明する。
「2002年に設立されたモックス研究所は数学モデルの研究施設で、スポーツとの関わりも深かった。ヨットのアリンギや水泳のアレーナとはすでに仕事をおこない、2010年には産業イノベーションのための先進数学アプリであるモックスオフを開発した。それからバレーボールイタリア代表監督のマウロ・ベッルートと共同で、相手がどこにスパイクを打ち込むかを予測するソフトウェアを開発した。さらに2017年にはマス&スポーツ社を設立して本格的にスポーツの世界に参入した。これが大きなスピンオフとなった」