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セリエA全チームが採用! リアルタイム解析でサッカーの戦術に革新をもたらす「バーチャルコーチ」の真価 

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バレンティン・パウルッツィ

バレンティン・パウルッツィValentin Pauluzzi

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posted2021/06/10 17:00

セリエA全チームが採用! リアルタイム解析でサッカーの戦術に革新をもたらす「バーチャルコーチ」の真価<Number Web> photograph by L’Équipe

「バーチャルコーチ」に映し出される実際の画面。リアルタイムでピッチ上の出来事を網羅している

 同社を構成するのは、スポーツのバックグラウンドを持つ10人のプログラマーだ。そのスタッフのひとりがアドリアノ・バッコーニで、バーチャルコーチプロジェクト実現のために奔走した中心的な人物であった。ビデオ解析の先鞭をつけた彼の名前は、この世界では有名である。

「それは1993年にブレシアで、ミルセア・ルケスク(監督)と始めたことだった。1年後にはセリエAの半数のクラブが、この解析ソフトを利用するようになり、僕自身は2006年のW杯でマルチェロ・リッピのスタッフに加わって一連の仕事を終えた」

 彼の豊富な経験から、選手のポゼッションとポジションのデータを集積してアルゴリズムに沿って解析し、さまざまなバリエーションの中から最も重要と見られるものを示唆するタブレット用アプリが生まれたのだった。

 他のアプリとバーチャルコーチが異なるのは、リアルタイム(ピッチ上の現実)に対処していることである。

「監督は望みどおりに試合の準備をするが、いったん始まってしまえば事前の研究とは異なる事態が生じる。リアルタイムに対応しないと勝利は得られない」とパストレッラは強調する。

既存の解析アプリとの違い

 既存のアプリのほとんどは、1人の選手の技術的な動き(パスやシュート、タックル、空中戦など)に重きを置いて、他の21人の動きには関心を払わない。それに対してバーチャルコーチは、スタジアムに設置されたカメラを通して集められた選手とボールのデータを、毎秒20回の速度で計算する。

「信頼度は飛躍的に向上し、情報もより完璧になった」とマス&スポーツ社の関係者は胸を張る。

 スタジアムのデータはサーバーに集められ、バッコーニが作成したインジケーターフォームで解析される。彼は次のように説明する。

「完成までに2年以上を要したが大きな進歩だった。生データが集められて、数学者たちが適切なインジケーターを計算するためのひとつのフォーマットを発見した。データを元にしてサッカーにとって適切な回答を得るためにさまざまな解析をおこなっている」

 たとえば選手間の距離や速度、走る方向を計算することでプレッシングの強度が決められる。

「1990年代のはじめごろは、テクニカルな動作が分析の対象だった。今日では時空間的なマトリックスがより優先されている」とバッコーニはつけ加える。

【次ページ】 場所を選ばないリアルタイムのデータ収集

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