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香川真司をちゃんと「カガワ」発音で呼んだナイスガイ… 速くて巧くて強くて優しい万能CBファーディナンド伝説
text by
粕谷秀樹Hideki Kasuya
photograph byGetty Images
posted2021/05/22 17:00
香川真司とチームメートだった頃、スアレスをマークするファーディナンド
名伯楽もクリロナと並べて称えたほど
ウェストハムからリーズに移籍し、チャンピオンズリーグのベスト4進出に貢献した後、リオはマンチェスター・ユナイテッドでアレックス・ファーガソン監督と出会った。
195cmという長身を誇るがボディバランスに優れ、敏捷性にも富んでいる。ファーストタッチも柔軟かつ繊細なDFを、ファーガソンは永い間モニタリングしていた。
リオを育てたレドナップとは旧知の間柄で、情報交換するたびに「いつかは自分の手で育ててみたい」と思いが募っていったという。
ウェストハムに「リオを譲ってもらえないか」と打診したところ、「それならば、デイビッド・ベッカム+100万ポンド」の条件を出されたことを、自著『MY AUTOBIOGRAPHY』でも明かしている。
また、基本的には飄々とプレーしているが、突如としてギアを2~3段は挙げられる運動能力と、勝利のためなら多少の荒業を厭わない覚悟も、ファーガソンは高く評価していた。
さらに稀代の名伯楽は、2008年にチャンピオンズリーグを制したチームを「史上最強」と認めて、最大の功労者としてクリスティアーノ・ロナウドとリオを挙げている。信頼の証といって差し支えない。
「カガーワでもカガワーでもない、カ・ガワも違う」
そして、もうひとつ大事な彼の特徴は、後輩の面倒をよくみることだ。
2012年、ドルトムントからユナイテッドに移籍した香川にも気を遣って、SNSを通じて正しい発音を呼びかけている。
「カガーワでもカガワーでもない。カ・ガワも違う。カガワと発音するように」
リオの発信以降、イングランドの映像メディアはほぼほぼカガワで統一された。
ナーカタ、ナカータ、ナカター……。中田英寿の発音はイングランドでもイタリアでもあやふやだったし、南野拓実は基本的にミナミーノだ。リオの気遣いは嬉しい。
相手の攻撃に耐えるだけの屈強なCBは、もはや時代後れだ。
数的優位に導くポジショニング、ミドル&ロングキックの精度、対人プレーと空中戦の強さ、さらに敏捷性など、現代のCBには数多くの要素が求められる。この、すべてを兼ね備えていたリオは、もっともっと高く評価されてしかるべきだ。
彼がピッチを去って6年、肩を並べる……いやいや、足もとにおよぶような者ですら、イングランドではまだ現れていない。