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香川真司をちゃんと「カガワ」発音で呼んだナイスガイ… 速くて巧くて強くて優しい万能CBファーディナンド伝説
text by
粕谷秀樹Hideki Kasuya
photograph byGetty Images
posted2021/05/22 17:00
香川真司とチームメートだった頃、スアレスをマークするファーディナンド
20年前に存在した近代フットボール的なCB
強く当たり、強く蹴る。当時のイングランド人CBは、大半がパワーファイターだった。しかし、リオは的確な状況判断と天性のスピードで、あっさりボールを奪い取る。また、スペースがあればドリブルで前進し、味方の足もとに、スペースに、精度の高いフィードを供給する。
そう、彼は近代フットボールがCBに求める要素を、すべて満たしていたのである。20年近くも前に、だ。
足もとのボール処理に自信があるからなのか、時おり持ち過ぎてピンチを招いても意に介さず、クリアで逃げるようなことはしない。自陣の深めの位置でも相手選手をかわし、ロングフィードでチャンスを創るシーンも再三あった。当時、ウェストハムを率いていたハリー・レドナップ監督にも「ボールを持ちすぎるな」と厳しく注意されている。
こうしたスタイルはイングランド人CBの流れを否定するもので、伝統を重んじるお国柄も踏まえると賛否両論が渦を巻いたのは当然だ。テリー・ブッチャー、トニー・アダムス、ジョン・テリーなど、かの国では武骨なタイプが好まれる。
そんな彼らは揺さぶりに脆かった。スピードあるFWを苦手にしていた。キックの精度も高かったわけではない。揺さぶりに動じず、スピードにスピードで応じ、なおかつビルドアップにも貢献できるリオこそが、イングランド史上最高のCBではないだろうか。
リオの後継者はいまだ見つかっていない
いま、リオを懐かしむ声があちらこちらから聞こえてくる。
ハリー・ケインの出現によって、往年の名ストライカーのガリー・リネカー、アラン・シアラー、ウェイン・ルーニーなどは記憶の1ページに書き換えられつつあるが、リオの後継者は依然として見つかっていない。
ハリー・マグワイアは遅すぎる。ジョン・ストーンズは慎重さに欠ける。
かつてイングランド代表で鳴らし、現在はコメンテイターとして人気を博すリネカーやジェイミー・キャラガーも、「リオの後継者を一刻も早く発掘しなくては」と語るように、イングランド人CBは育っていない。やはり、リオは特別だったのか。