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「あいつはひとりぼっちだな」なぜ62年目の北島忠治は、“群れない狼・吉田義人”を明大のキャプテンにしたのか?
text by
藤島大Dai Fujishima
photograph byMasato Daito
posted2021/05/01 17:02
明大史上最高の主将と称される吉田義人
「あいつはひとりぼっちだな」
そうつぶやくのを聞いた。なんだかうれしそうだった。視線の先に秋田の男鹿半島の才能がいた。新入生の春だ。3年で主将に指名しそうになって、あわてて止めたのだと、あるコーチが教えてくれた。
2021年1月の西原在日は言う。
「北島先生は、きっと、お見通しだったんでしょうね。なにもかも。練習通りやれ。先生はそういうことしか口にしない。でもあれは『練習しろよ』という意味だと思うんですよね」
誰よりも練習する精鋭は誰よりも練習させる統率者となった。
「最後の試合は本当に練習通りだったんですよ」。ビールケースの卓に丸椅子。あえて簡素にしつらえた店内に実感が漂った。
札幌の丹羽政彦の解説も実相を的確に示している。
「吉田には護ってくれる大人が必要」
北島忠治である。
「先生は明治は変わらなくてはならないと思ったのではないでしょうか。吉田の存在がそこに必要だと。吉田を大切にするのだと。結果は出ました。正しかったのです」
群れない狼が群れを率いた
歓喜の新春から5年、95歳で雲の上へ。まっすぐな人生だった。
あらためて教え子の証言に類のない指導を教えられる。緩んで露骨には締めない。往復30km、過剰かもしれぬランニングを「笑って見ている」(丹羽)。しろともするなとも指示しない。特異な個性を見抜いて、このまま放置すればクラブは低迷と察すれば、ひとりぼっちに全権を託した。
その男、絶対につき。
格別なエースにして突っ走るキャプテンを軸に独特のチームワークは醸成された。それは「まとまり」なんて薄くて淡い線よりも野太い輪郭を描いた。中心と結論が揺るがないので周囲の人間の仕事はおのずと定まった。
群れない狼が群れを率いた。
忘れてはならない。群れをなすのも、いくぶん穏やかで気持ちの優しい肉食獣だった。負けたらおかしかった。
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