JリーグPRESSBACK NUMBER
日韓戦ゴール後も川崎・山根視来が「らせん階段」的に進化… 2013年の中村憲剛と同じ「出力」の絶妙さとは
text by
いしかわごうGo Ishikawa
photograph byJ.LEAGUE
posted2021/04/24 17:02
運動量、現代的な戦術眼、そしてゲームの流れを読む力。山根視来の“らせん階段”のような成長は、今のJリーグでぜひ見ておきたい
「ネイマール、ピルロ、エルナンデスもそう」
それは2013年のこと。
コンフェデレーションズカップを終えてブラジルから帰国した中村憲剛が、“出力のタイミング”というフレーズをよく口にしていたのである。
「出力」とは、外部にエネルギーを送り出すという意味だ。サッカーで言えば、常に100%で全力プレーし続けるのではなく、勝負所を嗅ぎ分けてパワーを出すイメージになる。それを意識的に行っていると話していた。きっかけは、その大会でブラジル、イタリア、メキシコといった強豪国のトッププレイヤー達に対峙したことにあった。
「彼らを見て、自分で全部の仕事を頑張ろうとしなくていいと思ったんだよね。ネイマール、ピルロ、エルナンデスもそう。みんな90分間を100%でやっているわけではなかった。でもしっかりと仕事をする」
90分間、常に100%で頑張ることができれば理想だが、選手の体力も集中力も、無限ではない。この時の中村は帰国直後、休む間もなくナビスコカップ(現在のルヴァンカップ)に強行出場していた。だが消耗しているからこそ、"出力のタイミング"が抜群だった。
「自分ががむしゃらにやらなくてもチームってうまく回るんだな、と気付けた。『動けないな』って思いながら、いつ、どうやって動くかを意識して、動きを少し止めてみたら、逆にいいタイミングでボールが来るようになってきた。身体が動けると色々とプレーしてしまっていたから、全力でプレーできなかったことがよかったと思う」
心身ともに消耗し切った状態でも、要所で試合を決定づける仕事をする。それは中村憲剛が“出力のタイミング”を身につけたからだというわけだ。この年の彼はトップ下でゴールを量産し、「中村史上、一番良い」と宣言するほど圧巻のパフォーマンスを続けるシーズンを過ごしている。
もしかしたら、日本代表帰りの過密日程の中でフル稼働を続けていた山根視来も、似たような領域になっているのかもしれない。そう感じさせるだけの“出力のタイミング”を意識した攻撃参加を身につけ始めている。
「全部できるようになりたいし」
「全部できるようになりたいし、1人で守れるようになりたい」
現在27歳の山根視来は、チームの勝利にこだわりながら、自分自身もより高みに到達することに集中している。そしてその進化は、らせん階段を登っていくような地道な作業であることもよくわかっている。
川崎は、次節から2位・名古屋グランパスとの連戦を迎える。
相手の守備組織は鉄壁だ。それも、Jリーグ史に残るほどに。そこで「また山根視来だ!」と思う瞬間が生まれるかどうか、楽しみである。