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「最近、やめ方がわからない」泳ぎを楽しむ境地に到達したベテラン・入江陵介が東京五輪予選会で見せた、しなやかな強さ
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byTsutomu Kishimoto
posted2021/04/11 17:00
8日、日本選手権の背泳ぎ200m決勝で東京五輪2つ目の代表内定種目を手にした入江
その後、続けるのか退くのか、競技人生をどうするかを考えた。時間をかけて自分と向き合った末に選んだのは競技を続行すること。そして単身、アメリカに渡ることだった。
長年慣れ親しんだ環境を一変するのは不安もあっただろう。ベテランの域に入ろうとしていたからなおさらだ。それまで周囲にはいざというときに頼れるスタッフもいた。そこから抜け出すのは簡単ではない。
それでもチャレンジする道を選んだ。やがて泳ぐ楽しさをあらためて見出し、なんでも自分でやらなければいけない生活での気づきや発見が人としても、選手としても成長の糧となった。
表情にも変化があった。どんな結果で終わろうと、前向きさを感じさせたし、レース後の取材の場でもどこか柔らかさや受け止めるゆとりのようなものが感じられるようになった。そこにも、アメリカでの時間の充実ぶりがうかがえた。
2018年のパンパシフィック選手権では、主要な国際大会としては4年ぶりにメダルを獲得するなど、日本背泳ぎの第一人者としての地位を譲ることなく進んできた。
根底には東京五輪の存在もあった。2013年、招致活動にも携わったから思い入れは強かった。
8日に200m決勝を終え、入江はこう語っている。
「自分自身の選考会が終わってほっとしています。夏に向けてもっとタイムを上げていかないといけないと思いますし、しっかりタイムを作っていかなければと思います」
出るだけではなく、そこで戦う意志を明確に示している。それもまた、東京への思いの1つかもしれない。
水泳を楽しんでいるから、終わりはつくらない
それ以上に印象的なのは次の言葉だ。
「自分自身、やめどきが分からない。オリンピックが終わったらやめるかもしれないし、続けるかもしれないし、最近、やめ方が分からない」
「自分自身、区切りをつけずに純粋に水泳を楽しんでいるので、僕自身で終わりはつくらないようにしようと」
泳ぐことを楽しむ心境に到達したこと。それこそ、今の入江の強さの源ではないか。
はじめてオリンピックを本格的に意識して挑んだ北京五輪代表選考会の日本選手権では期間中、先輩に相談するほど苦しみ、本大会では重圧から思うような泳ぎができなかった。
あれから13年、しなやかな強さとともに、入江は今なお第一人者として泳いでいる。