オリンピックへの道BACK NUMBER
「最近、やめ方がわからない」泳ぎを楽しむ境地に到達したベテラン・入江陵介が東京五輪予選会で見せた、しなやかな強さ
posted2021/04/11 17:00
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Tsutomu Kishimoto
東京五輪代表選考を兼ねた競泳の日本選手権。4月3日の初日から大会に懸けてきた新星たちが躍動する中、あらためて存在感を示した選手がいる。背泳ぎの入江陵介だ。100m、200mともに圧勝、ともに派遣標準記録を突破し、両種目で代表の切符を手に入れた。
オリンピック4大会連続の代表選出は北島康介、松田丈志と並ぶ日本競泳最多タイとなる。100mは今回で8連覇、200mは実に14度目の優勝。どの数字をとっても、第一人者としての長いキャリアを物語る。
国際大会でも数々の実績をあげてきた。オリンピックではロンドン大会で銀2、銅1のメダルを獲得し、世界選手権はこれまで銀2、銅2と計4つのメダルを得てきている。
日本選手権で最初に臨んだ5日の100m決勝のあと、入江は「何度やっても選考会は慣れません。ようやくゆっくり寝られます」と語った。現在は31歳、ベテランの域にいる入江でも緊張を強いられるところに代表選考の重圧の大きさを思わせたが、なおさら、入江の強さをも思わせた。
リオの挫折を乗り越えて
輝かしいキャリアを刻み続ける入江だが、順風満帆でここまで来たわけではない。
今も忘れられない言葉がある。
ロンドンに続く表彰台を目指して挑んだ3度目のオリンピック、2016年リオデジャネイロ大会は思うような成績を残せなかった。
200mで8位に終わったあとには、入江はこう語った。
「この1、2年、賞味期限切れなのかなと思うこともありました」
賞味期限切れ、という自身への表現は痛切に響いた。
さらにある記者から進退を問われて答えた。
「今はまだ答えられません」
表情には失意の色がありありと浮かんでいたし、すでに26歳と今後の競技人生を考えて不思議はない年齢に達していたから出た質問だっただろう。