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王者川崎に0-1の善戦も「勝ちに来たから悔しい」…若き鳥栖とミョンヒ監督、勇敢な“超攻撃”と巧みな配置転換の可能性
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byJ.LEAGUE
posted2021/04/09 11:02
川崎戦後、樋口雄太は悔しさをにじませたという。見据える志が高いからこそ、今の鳥栖には大きな可能性を感じる
前半のスタッツに見て取れる善戦ぶり
技術的なミスによってマイボールを簡単に失ったり、対人に決して強くないエドゥアルドが小林悠の後手を踏み、左サイドを攻略されてピンチを招くシーンが何度かあったが、それでも前半の鳥栖が善戦したのは、次のデータからもよく分かる。
シュート数=5本:6本
ボール支配率=50%:50%
パス本数=284本:291本
パス成功率=80%:82%
左側が川崎のスタッツである。公式データにない決定機の数こそ川崎のほうが多かったが、ボール支配率はまったくの五分、それ以外は鳥栖が上回っていた。
しかし、後半に入って思いがけないアクシデントが鳥栖を襲う。
59分にレアンドロ・ダミアンの突破を田代がファウルで止めて一発退場を宣告されてしまうのだ。
24分に起きたボランチ・島川俊郎の負傷交代には、中野嘉大を右ウイングハーフに投入し、樋口をボランチに回すことで事なきを得たが、退場のアクシデントはリカバリーできなかった。
鳥栖ベンチが61分に飯野、林、大卒ルーキーのDF松本大輔の3人を送り出すと、その動きを見て川崎ベンチが62分に遠野大弥、三笘薫を投入する。
遠野のゴールが生まれるのは、その3分後のことだった。
こうなると、完全にゲーム支配は川崎のものだった。
「0-1で負けるのもよしとして、何が残るのか」
だが、それでも金監督は勝利を目指して強気の姿勢を貫いた。
「長いシーズンを考えると、得失点差も大事になる。0−1で負けるのもよしとする考えも頭をよぎりましたけど、それをして何が残るのか」
76分にMF仙頭に代えてFW山下を送り出し、4−3−2の捨て身のシステムで同点を狙うのだ。結果、得点を奪えずに0−1で敗れたが、インテンシティや運動量をベースに攻守両面で攻撃的に戦うという、鳥栖のアイデンティティを示したのは間違いない。
敗れたとはいえ、チームとして大事にしているものを取り戻せたのではないでしょうか――。
そう訊ねると、金監督はきっぱりと言った。