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王者川崎に0-1の善戦も「勝ちに来たから悔しい」…若き鳥栖とミョンヒ監督、勇敢な“超攻撃”と巧みな配置転換の可能性
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byJ.LEAGUE
posted2021/04/09 11:02
川崎戦後、樋口雄太は悔しさをにじませたという。見据える志が高いからこそ、今の鳥栖には大きな可能性を感じる
誰が前線か、右ウイングハーフかさっぱり分からない
そのひとつが、ターゲットマンの起用である。
C大阪戦で右センターバックのファン・ソッコが退場となったため、川崎戦でDF田代雅也が起用されたのは、想像どおり。
ところが、先日の五輪代表のアルゼンチン戦でゴールを奪った林大地、ここまで3ゴールをマークしている山下敬大のレギュラー2トップがいずれもベンチスタート。さらに、不動の右ウイングハーフの飯野七聖まで控えに回った。
FW登録されているのは、普段は中盤で起用される樋口、本田風智、仙頭啓矢の3人。開幕戦では左ウイングハーフとして先発したあとスタメンから外れていた酒井宣福を含め、誰が前線に入るのか、誰が右ウイングハーフを務めるのか、さっぱり分からない。
これには川崎サポーターのみならず、鳥栖サポーターまでもがSNS上で驚きの声をあげていた。
結論を言うと、身長180cmの酒井が前線に入り、プレッシングの急先鋒になると同時に、基本はチームとしてショートパスを繋いでマークを剥がすが、川崎が前から激しく来たときには、ロングボールを使ってひっくり返すためのターゲットマンとなったのだ。
“風車”の仕組みを左から右サイドに移した
さらに、左右のメカニズムも入れ替えてきた。
ここまでの鳥栖の特長のひとつが、左サイドのポジションチェンジだった。左インサイドハーフの仙頭がディフェンスライン近くに下り、左ウイングハーフの小屋松知哉がインサイドに潜り込み、左センターバックの中野伸哉がウイングのように駆け上がる。
3人がまるで“風車”のようにクルッと回って相手を翻弄する仕組みだが、この日は中野を右サイドで起用し、その“風車”を右サイドに移して川崎を迎え撃ったのだ。
右サイドから押し込むことで、川崎のストロングである左サイドを封じ込めようとしたのでしょうか――。
試合後にそんな質問を投げかけると、金監督が明かした。
「そういう狙いは当然ありましたし、それとは別に、川崎のプレッシングを剥がすことへの準備として配置転換をしたところもあります」
こうして鳥栖は臆することなく、川崎に正面からぶつかっていく。