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「東京五輪の聞きたくない情報を排除したかった」マラソン代表・大迫傑はケニアで合宿中…紙の練習日誌をつける日々 

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林田順子

林田順子Junko Hayashida

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photograph byJunya Osako

posted2021/03/30 19:05

「東京五輪の聞きたくない情報を排除したかった」マラソン代表・大迫傑はケニアで合宿中…紙の練習日誌をつける日々<Number Web> photograph by Junya Osako

ケニアで合宿を行うマラソン代表の大迫傑。現地のトレーニングパートナーと

 アスリートである以上、本来は行動が第一です。きちんと競技に向き合えていない選手が、きれいごとやオリンピックについて意見を言っても説得力がありません。自分が何かを伝えたくなったときに、ちゃんと説得力を感じてもらえるように、僕は自分が今やるべきことをしっかり行動していくことが大事だと思っています。だからSNSは「理解をしてもらいたい」、「共感をしてもらいたい」というよりも、「僕はこうやって生きているんだぞ」と示すための場所だと捉えています。

 行動が第一ではありますが、一方で自分の思いを言語化することもアスリートにとっては大事なことだと思っています。

なぜ高校生以来、日誌をつけ始めた?

 ケニアに来てから僕は、高校生以来となる練習日誌をつけています。トレーニングメニューというのは日々アップデートされていくものだし、ルーティン化されているので、練習の内容などはあまり詳しく書いていません。練習はやれるだけのことをやるしかないし、きつかったらきついなりに頑張ればいいだけ。

 それよりも自分が今、何を考えているのかを整理して、言語化することに意味があると感じています。思っていることがあっても、それを言葉にする、書き留めておくってことはなかなかありませんよね。走っているときに色々考えていても、少し時間が経つと忘れてしまう。解決できたこともたくさんあったのに、あやふやになっていたりする。数日前の日誌を見返しただけでも、こんなこと考えていたんだと気づくこともあるし、文字で残していく作業は、自分にとって新しいステップになると感じています。

 僕はずっと陸上選手の地位を向上させたいと思っていました。1つの大会で結果を出すために半年以上も厳しいトレーニングを積んできて、その努力が実って日本記録を出せたとしても、陸上界以外で知られていないことも多い。多くの人に知ってもらうためには、自分たちでどういう価値をつけていけるのかを考えていかないといけないでしょう。

 僕は走ることのスタートラインはみんな一緒で、日本の陸上界においては走るセンスがずば抜けて高い人はいないと思っています。

 だからこそ東京オリンピックが終わった先に、ランナーとしてどんな自己表現ができるかを考えるべきではないか。右にならえの発言をしているうちは、個々の価値を上げることなんてできないでしょう。

 SNSで発信することで終わらず、自分の思っていることをきちんと言語化して伝える力が、今のアスリートには求められている気がします。

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