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開幕から負けなし、6試合連続無失点…J1サガン鳥栖の躍進の理由は? 相手指揮官も「選択肢の多さ」に驚き
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byJ.LEAGUE
posted2021/03/23 11:01
開幕から好調を維持するJ1サガン鳥栖。松岡大起、中野伸哉ら若手選手も多く、今シーズンの躍進に期待が懸かる
また、守備面でのバランスも絶妙だ。中野が上がると、アンカーの位置にいる19歳の松岡大起がDFラインに落ち、エドゥアルドとファン・ソッコともに最終ラインを形成。そこで生まれたスペースにはインサイドハーフの仙頭啓矢が落ちて、アンカー的な役割をこなす。ピッチ内で行われる、この高い連動性こそ、今季の鳥栖の最大の長所とも言えるだろう。
守護神・朴一圭の存在
そして、さらに鳥栖の連動を語る上で欠かせない存在となっているのが、昨シーズン終盤に加入したGK朴一圭だ。
横浜F・マリノス時代からハイライン戦術によって生まれたDFラインの裏の広大なスペースを1人でケアしてきた朴は、フィールドプレーヤーばりに高い位置に飛び出し、正確な足元の技術とパスセンスを駆使してビルドアップに参加する。その長所は鳥栖でも遺憾無く発揮されている。
先ほど前述したDFライン、アンカー、インサイドハーフの縦の連動性にはリスクも潜む。ポジションカバーを意識するあまり、チームとしての矢印が後ろ向きとなり、全体のDFラインが自陣方向へ下がってしまうというデメリットがあるが、鳥栖の場合はGK朴が積極的にパス回しに参加することで、そのリスクが回避できる。
松岡が最終ラインに落ちた時は、朴もその横に位置取り、ボールポゼッションに参加することでエドゥアルドとファン・ソッコを一列前に押し出す。または松岡に代わってエドゥアルドとファン・ソッコが空けた間のスペースに自ら入り込むことも厭わず、チーム全体がより前に重心を置くビルドアップを実現しているのだ。
第4節・清水エスパルス戦後、今季の戦いぶりを朴に質問する機会を得た。
「常に相手のやり方を見て、チームとして対応しています。左サイドを渋滞させないように前に出るタイミングを見ている。たとえば今日の清水は中央を締めてきたので、そういう相手にはサイドチェンジを活用することが非常に効率的。僕は前に出てサイドチェンジを狙いながらも、もしダメな時は松岡選手を落として、彼に任せる。自分で組み立てるか、松岡選手が落ちて組み立てるのかは常に考えてプレーしています」
左インサイドハーフに位置する仙頭はこう語る。
「僕らのCBやGKに対して、相手がプレスをかけるタイミング、角度、枚数をきちんと把握して、そのプレッシャーからの逃げ道を作ることを意識しています。その時に僕と伸哉と知哉が同じ動きにならないように、常にコミュニケーションをとっている」
各選手に戦術理解と動きの共有ができていることが、この結果をもたらしている。
第5節・柏レイソル戦では大分トリニータから加入した島川俊郎がアンカーに入り、松岡は左インサイドハーフに入った。「シマ(島川)と僕のどっちがビルドアップに加わった方が有効策になるのかを話し合った」と朴が語ったように、メンバーが変わってもチームに“共通認識”が根付いているため、スムーズに機能。1-0で迎えた61分に松岡が負傷退場するアクシデントがあっても、投入された仙頭がすんなりとゲームに入り、直後にFW林大地がこの試合2点目となる追加点を挙げ、そのまま試合を締めた。