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【軍事クーデターで禁止に】「失神しても目を覚まさせて続行」ミャンマーの危険すぎる格闘技“ラウェイ”って?
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2021/03/24 17:00
ミャンマーの格闘技「ラウェイ」はその過激で過酷なルールが大きな特徴だ
対戦相手を罵倒したり唾を吐くのはNG
一般的な格闘技の価値観では、引き分けは“勝てなかった”結果だ。しかしラウェイでは“最後まで諦めなかった”、“負けなかった”となり、勝利に近い感覚なのだろう。過激で過酷なルールが意味するのは「死ぬまでやれ」というより「この中で生き抜け」ではないか。
「ラウェイには他の格闘技のような“チャンピオン”という概念がないそうです。チャンピオンベルトはあるんですが、それは意味としては勝利者賞ですね。大きい大会、記念大会の勝利者賞がベルト。だから防衛義務もありません。『迷子になった拳』にも出てくるように、日本人にもラウェイのチャンピオンと呼ばれる選手がいます。ただそれは、ベルトが勝利者賞の試合で勝った、ということです。それにラウェイではトラッシュトーク(試合前などに対戦相手を罵倒する舌戦)がNGなんです。リング上で唾を吐くのが反則だったり。頭突きはありなのに(笑)。そうした格闘文化の違いも面白いんですよね」(今田)
ミャンマーの人たちにとってのラウェイとは
強さ、闘うことの意味、勝利の価値。さまざまな面でラウェイには独自の文化がある。そこに日本人が飛び込めば摩擦もハレーションも起きる。『迷子になった拳』に登場するのは、ラウェイ以外ではスポットが当たらなかったファイターたちだ。摩擦やハレーションの中で生きる彼らにとって、ラウェイは突破口にも逃げ道にもなり得る。どちらに進むのかは、もしかすると本人にも分からない。だから『迷子』なのだ。
今田も監督としてラウェイに接して迷子になり、作品を完成させた今でも“出口”を探している。羅針盤になるのはラウェイという文化、その精神性への理解だ。
「ミャンマーの人たちにとってのラウェイとはどんなものなのか。ミャンマーの選手がどんな気持ちで闘っているのか。それは自分の中で宿題として残ってます。ミャンマーには135もの民族が存在します。違う民族の選手が対戦する時の感覚がどんなものなのかも知りたいし、そもそも独裁政権、軍事政権が長く続いてきた国なのでラウェイをしっかり取材した作品も少ない。またラウェイを撮りたいし、ミャンマーにも行きたいんですけどね」