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桜庭和志プロデュース“QUINTET”には「甲子園の感動」が? 女子団体巴戦でのドラマに“桜庭の息子”の登場も
posted2021/03/22 11:00
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
QUINTET
桜庭和志が、格闘技の歴史に残る“偉人”であることは論を俟たない。
伝説のホイス・グレイシー戦をはじめ“打倒グレイシー”を成し遂げたのは、トップに挙げられる功績だがあくまで一部。オリジナリティにあふれるテクニックでバーリ・トゥード(VT)のイメージを一新したことも大きい。
単なる「相手に馬乗りになって殴りつける野蛮な闘い」ではなく、そこに理論と技術と“楽しさ”があるのだと桜庭の闘いが示してくれたのだ。桜庭を見て格闘技を志した者は数えきれず、UFCは彼のキャリアを名誉殿堂入りという形で讃えた。UFCの大会自体には一度しか出ていないにもかかわらず、だ。
5人制団体戦抜き試合『QUINTET』の発明
そんな桜庭の功績として、もう一つ付け加えたいのが『QUINTETの発明』だ。QUINTETとは、桜庭がプロデューサーを務める格闘技イベントであり試合形式。グラップリング(打撃なし、道着なしの組み技試合。絞め・関節技あり)の5人制団体戦抜き試合である。
抜き試合とは、先鋒同士、大将同士が1試合ずつ闘うのではなく、勝った選手が続けて試合をするもの(引き分けは両者退場)。後半に控える選手がマットに上がらず終わることもあるし“5人抜き”もあり得る。高校柔道の金鷲旗などと同じだ。
この試合形式がドラマを生む。個人競技の世界で生きてきたファイターたちに“チームのために、仲間のために”という感覚が芽生えるのだ。
1人抜いた選手はチームの優位をさらに強めるため2人目にも勝とうとし、2人抜けば「次の選手には勝てなくても、できるだけ疲れさせてやろう」と全力を尽くす。後を託された者は敗れた仲間の気持ちも背負って闘う。
チームのメンバーは一本勝ちを狙う「抜き役」ばかりではない。相手のポイントゲッターを時間切れ引き分けで“潰す”仕事も重要だ。体格や実績で上回る相手に果敢に挑み、粘りに粘ってドローに持ち込むのもQUINTETならではの名勝負なのである。
一本負けし、仲間の力になれなかったと涙を流す選手がいて、チームメイトの勝利を自分のこととして喜ぶこともできる。桜庭は、そんなQUINTETには「甲子園の感動」があると言う。