JリーグPRESSBACK NUMBER
なぜ「受験塾の経営者」が“突然”サッカー代理人に? “異色の代理人”富永雄輔(38歳)とは何者か<ソン・フンミン&吉田麻也も所属>
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byGetty Images
posted2021/03/17 17:00
ソン・フンミン(トッテナム)も代理人事務所『Base』に所属している
「知人に連絡先を聞いて電話し、『今度、鳥栖に行くので食事をしよう』と誘いました。会って1時間後には互いにタメ口で話していた。塾の生徒とアンダー年代の選手の年齢ってほぼ同じなので、僕からすると話題に困らないんですよ。パズドラの話をしたりね。
代理人は選手の考えを代弁する仕事なので、何でも話せる関係になるべき。だから僕は選手と友達のように話せるようにならなきゃいけないと考えている。試合後は選手からひっきりなしに電話がかかってきます」
田川を皮切りに、齊藤未月、町田浩樹と契約し、さらに評判が広がっていった。アンダー年代の選手の場合、保護者との面談も重要な要素になるが、それも塾で慣れたもの。『Base』は潤沢な予算で豪華なパンフレットを作っており、信用を得るのに一役買った。
「最初はクラブと関係を築くのに苦労しましたが、ありがたいことに評判が評判を呼び、最近は各方面から声をかけていただけるようになっています。コロナ禍で営業がしづらいのですごく助かっています」
「東大を目指す子」と「日本代表を目指す子」の共通点
最初は代理人を副業として始めたが、今や塾と両方が本業になった。それによって新たな悩みも生まれている。年に2回、繁忙期が重なるのだ。
「夏休みは夏期講習と夏の移籍市場が重なり、1月は中学受験と冬の移籍市場が重なる。志望校リストとにらめっこしながら、横で移籍金とにらめっこするという感じ。そのときだけは正直、時間が欲しいと感じます。
ただ、2つとも人の人生を預かる仕事なので、僕にとっては同じジャンル。勉強に命をかけるか、スポーツに命をかけるかの違い。偏差値と移籍金。テストの点数とゴール。それが置き換えられているだけであって、基本的にはあまり変わらない。違和感なく両立しています」
東京大学や京都大学を目指す子供と、日本代表を目指す子供には共通点があるという。
「彼らが他の子供と明確に違うのは、自分に対して謙虚であること。当然自信もあるんですが、それ以上に謙虚さがある。謙虚なので、失敗したときに人のせいにせず、自分に矢印を向けられる。たとえばテストの結果が悪かったときに、自分の勉強のやり方を振り返る。プレーを自己分析するのと同じですよね」
富永はルビン・カザンの齊藤未月とフローニンゲンの板倉滉を例にあげた。
「齊藤未月は移籍後に負傷してしまい手術を受けた。励まそうと思って電話したら、『大丈夫です。この期間を生かして、ロシア語を覚えますよ』と次に目を向けていた。
板倉滉はオランダで出続けていますが、『日本に帰国しても街で気づかれない。こんなの日本代表とは言えない。まだまだ自分は三流』と地に足をつけている。
今の世代にとって海外移籍は通過点にすぎず、そこで何ができるかを真剣に考えている。昔のような俺が俺がといったガツガツさを感じないかもしれませんが、謙虚で学ぶ姿勢がある。彼らが人として成長し、W杯に出るのをサポートしていきたいです」
ベルナベウの熱を感じて育った受験のカリスマが、外資系大手の黒船の舵取り役として、日本サッカーに新たな常識と価値観を突きつけようとしている。
(【続きを読む】「手数料ゼロ&飲みニケーションしません」で急成長 サッカー代理人の“黒船”がJリーグのビジネス常識を破壊する? へ)