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「頑張ったね」サクセスブロッケンの“誘導馬引退”と最後のキス ダービーの夢を叶えたふたりが歩むそれぞれの道
posted2021/03/13 06:00
text by
カジリョウスケRyosuke Kaji
photograph by
Ryosuke Kaji
2020年春、緊急事態宣言が解除されてすぐに行われた無観客の日本ダービー。誘導馬になったサクセスブロッケンはついに“2度目”のダービーの舞台に立つという夢を叶えた。そして、担当の葛原耕二はホッと胸をなで下ろした。選ばれた18頭の3歳馬たちを安全に本馬場に送り届け、コロナ禍で外出を自粛しているテレビの前のファンたちを勇気づけるという務めを果たすことができたからだ。
ダービーが終わり、初夏の東京開催が終わるとローカル開催に移る。東京競馬場はオフシーズンに入り、サクセスブロッケンは秋開催に向けて10年目の暑い東京の夏を過ごした。まだ15歳だがナイーブな時もある馬。足もとが腫れることもあるのでこまめなケアも欠かさなかった。葛原をはじめ東京競馬場のスタッフの体調管理のもとトラブルなく過ごしていた。
「ファンはブロッケンを見守ってくれていた」
第二波も落ち着きに向かっていた秋、JRAは抽選による限定的な観客入場を開始し賑わいを取り戻しつつあった。サクセスブロッケンと葛原は11月1日の大レース・天皇賞(秋)を誘導することに決まる。観客を前に芝GIを誘導するのは初めてのこと、さらに天皇賞(秋)は名牝アーモンドアイが連覇、歴代最多となる芝GI・8勝をかけた大一番とあって非常に注目度の高いレースとなっていた。
しかし、ダービー誘導の経験を積んだサクセスブロッケンは新たな試練を前にしても落ち着いた誘導を見せた。葛原は「いい誘導ができた。多くのファンはブロッケンの誘導を静かに見つめ、見守っていてくれていた感じがした」と振り返る。コロナ禍での開催で、主催者側から静かな観戦を呼びかけていたこともあった。立ち入り制限により馬場に近づくこともできなかった。それでも集まったファンたちは声を出すことなくサクセスブロッケンのその様子を静かに見届け、拍手を送った。