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「頑張ったね」サクセスブロッケンの“誘導馬引退”と最後のキス ダービーの夢を叶えたふたりが歩むそれぞれの道
text by
カジリョウスケRyosuke Kaji
photograph byRyosuke Kaji
posted2021/03/13 06:00
サクセスブロッケンと葛原耕二は強い信頼関係を築き、引退レースのフェブラリーSまでともに歩んだ
「行ってきます」
14時30分、引退レースに向けて馬装の準備を始める。ついにサクセスブロッケンと共に行う最後の仕事。葛原はいつも通りサクセスブロッケンと接し、いつも通りの準備を行った。2人が作り出すその空間を、周りは優しい眼差しで見守り、辺りは言葉にできない柔らかな空気感に包まれていた。
そしてGI競走の誘導のみで着用するシルクハットと燕尾服の正装を身に纏った葛原は、フェブラリーSのゼッケンをつけたサクセスブロッケンに跨り、見送る関係者たちに「行ってきます」と伝え乗馬センターを出発した。
葛原とサクセスブロッケンは午後の誘導を担当していた芦毛部隊と合流。サクセスブロッケンのもとには 現役時代に担当した藤原英昭調教師や横山典弘騎手がエールを送りに駆けつけた。
サクセスブロッケンはフェブラリーSの先導3頭の先頭を進んだ。いつものように舌を出しながらの彼らしい誘導ではあったが、終始落ち着きを保ち16頭を安全に本馬場まで誘導する仕事を勤め上げた。競走馬たちが無事に返し馬に向かったあと、整列して地下馬道へと向かった。途中、サクセスブロッケンの誘導馬引退の場内アナウンスが流れると、葛原は深々と頭を下げ敬礼した。
その後、葛原とサクセスブロッケンは第12レースの誘導も行う芦毛部隊と別れ帰路についた。乗馬センターへ向かう地下馬道でふたりっきりになると、葛原は相棒に「頑張ったね」と何度も何度も声をかけて愛撫した。これまでの思いがグッと込み上げてきた。
乗馬センターに戻り燕尾服から着替えた葛原は、いつも通り愛馬の手入れをし、いつも通り接した。そして甘えてくる愛馬を労うように、葛原はそっとキスをした。