SCORE CARDBACK NUMBER
56歳で引退の伯楽、角居勝彦師が14年前ウオッカをダービーに出すときに語った“鮮烈な一言”とは
posted2021/03/14 17:00
text by
片山良三Ryozo Katayama
photograph by
KYODO
3月は競馬界の年度替わり。満年齢で70歳を迎えた7人の調教師と定年前の角居勝彦調教師が引退した一方で、3月1日付で9人の調教師が新規開業した。美浦が鈴木慎太郎、辻哲英の2人。栗東が小林真也、四位洋文、杉山佳明、田中克典、茶木太樹、辻野泰之、畑端省吾の7人。東西の差は、今年度の引退調教師が美浦1人、栗東7人と偏りがあったからだろう。
ダービー2勝の金看板が光る四位新調教師は、昨年の2月29日に無観客の阪神競馬場で最後の騎乗を終え、仲間から胴上げで送られて騎手免許を返納した。その翌日から技術調教師となって、千田輝彦厩舎を手伝いながら開業の準備を進めてきたが、1年が経った今も非常事態が解かれていない。四位は「僕だけではありませんが、コロナには思い切り振り回されています」と、戸惑いの表情を隠せない。その言葉通り、影響は共有せざるを得ないもので、引退調教師の合同送別パーティーが開かれないのも初めてのことになった。
角居師は、'18年1月に3年後の引退を突然表明した。いつ撤回してくれるのかと淡い期待を抱いて見守っているうちに、あっという間にそのときが来てしまった。'01年に開業し、20年のキャリアで700勝を越える勝ち鞍をあげ、幾多の名馬を育て上げた現代の名調教師。まだ56歳の若さと聞けば、もったいないと思う人がほとんどなはずだ。体調に問題があるわけではない。今後は石川県の実家に戻って、代々続いてきた天理教の教会を引き継ぐという。
ウオッカをダービーに出走させる決断
角居師の取材で忘れられないのは、'07年に当時3歳のウオッカの進路を、順当なオークスではなく冒険ともいえるダービーに決定したときの一言だ。
「どうせなら、よりワクワクできる方を選びました」
この決断が64年ぶりの牝馬によるダービー制覇というエポックメーキングにつながり、鞍上四位洋文の将来を拓くことにもなった。
角居師は、ライフワークとしてきた引退馬支援も続ける。クラウドファンディングなどでファンの好意に頼る方法では限界があるわけで、登録抹消時に馬主に支給される給付金からの天引きなど、制度に手を入れることでその志を後押しできないか、JRAにも考えてもらいたい。