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「“体にやさしい”は思い込み」伊達公子が批判… 日本で5割を占める“砂入り人工芝”コートと、育成の大改革案とは
posted2021/03/10 17:05
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph by
Yuki Suenaga
昨年12月16日、伊達公子は日本テニス協会の役員数名とともに名古屋市役所を訪れていた。同市の河村たかし市長などに宛てて、ある要望書を提出するためだ。
2026年に愛知県で開催されるアジア競技大会でテニス会場となる東山公園テニスセンターのコートサーフェス(材質)に関する要望書だった。同テニスセンターは大会の開催基準に合わせて現在の砂入り人工芝コートからハードコートへ改修されるが、大会終了後にまた元のサーフェスに戻す予定だという。普段の利用者たちにアンケートをとったところ、戻してほしいという意見が多かったためだそうだ。この情報を耳にした協会が出した要望書の内容はつまり、「ハードコートのまま残してほしい」というものだった。
日本の5割を占める「砂入り人工芝コート」
これは伊達が取り組もうとしている『日本のテニス環境の整備』の根幹に関わる事柄でもある。日本のテニスコートの5割を占めるこの砂入り人工芝について、伊達はことあるごとに批判的な立場を明確にしてきた。2019年には早稲田大学大学院のスポーツ科学研究科で『日本人テニスプレイヤーの世界トップレベルでの活躍を阻むコートサーフェス』というテーマで修士論文を書いたことも、よく知られる。
少々の悪天候でもプレーでき、メンテナンスに費用がかからず、プレーヤーの足腰への負担が軽い……これらは砂入り人工芝の利点として言われることだが、グランドスラムはもちろん、WTA(女子テニス協会)やATP(男子テニス協会)が運営するツアーに砂入り人工芝は存在しない。だから、90年代の第一次キャリアでツアーのトップレベルだった伊達がそのサーフェスでプレーする機会はなかった。しかし2008年に競技復帰した伊達は、ポイントを0から積み上げていく最初の1年間、日本国内で開催されるITF(国際テニス連盟)主催のツアー下部大会を主戦場とした。このとき、砂入り人工芝で戦う機会を重ねることになる。
なぜ「ハードコート」でなければいけないのか?
「とにかく体にやさしいと言う一般プレーヤーが多いけれど、それは思い込みでしょう。砂の量が均一ではないので滑る場所が予測できず、むしろ足腰に負担がかかります」と伊達は断言する。修士論文を書くにあたって国内外の選手やコーチにも6000人近くアンケートを実施したが、砂入り人工芝を「嫌い」と答えた人がその理由として挙げたものは、「滑りやすい」「他のサーフェスとは違う(体の)部位にストレスがかかる」「バウンドが低く調整しにくい」などが多くを占めた。