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「7年間、毎日のように人種差別用語を」TikTokで大人気“レミたん”が明かす過去と“強いメンタル”【ハンドボール日本代表】 

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石井宏美

石井宏美Hiromi Ishii

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photograph byYukihito Taguchi/JHA

posted2021/03/10 11:03

「7年間、毎日のように人種差別用語を」TikTokで大人気“レミたん”が明かす過去と“強いメンタル”【ハンドボール日本代表】<Number Web> photograph by Yukihito Taguchi/JHA

ハンドボール日本代表で主将を務める土井レミイ杏利。TikTokでは190万人のフォロワーを抱えている

「この状況ですら楽しんでしまおう」

 自分自身のメンタルを変えなければ、このままハンドボール人生が終わってしまう――半年ほどして、2週間の冬のバカンスに入ると、早速、行動に移した。自分はなぜハンドボールをしているのか。その原点が楽しむことにあると気づき、その状況から逃れられないのであれば、「この状況ですら楽しんでしまおう」とイメージトレーニングを繰り返した。

「日本は自虐ネタで笑いを取る方が多いですけど、フランスは真逆で人種差別的なブラックジョークを言われるんですが、その格好の的になっていたんですよね。日本では上下関係が厳しいところで生きてきたので、何を言われてもずっと笑っていたんです。でも、フランスではそこで『そういうことを言うのをやめてくれない?』と反論する、または逆にそれに乗っかるぐらい自分を表現できる人でなければ認められない。だから、まず、自分自身をリスペクトしようと思ったんです。

 その上で相手に対して明確に意思表示する。そのうちに『お前も言うようになったじゃないか』と、ほんの少しずつですけど認められるようになってきましたね。そうなってくると、パスも回るようになり、シュートも入る。試合にも出られるようになり、活躍できるようにも。いい循環が生まれるようになりましたね」

「孤独感」が財産に変わった

 いやというほど味わったフランスでの完全な「孤独感」。しかし、そこで培われたメンタルは、何物にも代え難い財産となっている。

「もちろん、運動能力や技術面でもフランスで学んだことはとても多くありますが、やっぱり一番はメンタルが成長したと感じていて。確固たる“自分”というものを持てるようなきっかけになりましたし、相手の目を見て、はっきりと自信を持って意見を言えるようになった。それは今、プレーする上でも生かされている部分です」

 日本代表は8大会ぶりの五輪に向けて、17年にアイスランド出身の名将ダグル・シグルドソンを監督に招いて強化に取り組んできた。しかし、チームは低空飛行が続いた。19年1月の世界選手権は全敗で24チーム中最下位。異文化に溶け込めない孤独感や疎外感のなかで、その環境に順応し、解決策を見出し、強靭なメンタルを築いた土井の経験は、今、日本代表でも発揮されている。

「ハンドボールなど世界とまだ力の差があるスポーツ、負け続けてきたチームは、世界の強豪を相手にすると、どうしても『どうせ今回も勝てないんだろうな』とネガティブなメンタルから入ってしまう。でも、実はそれは自分たちの中で切り替えることができるもの。『そんなのは関係ない。とにかく自分たちのハンドボールをやって勝つ』という強いメンタルを築き上げることができたら、結果は全然変わってくるものです。とくに、体格やフィジカルで相手の方がとんでもなく上なのであれば、その部分だけでも相手より上回れないと勝ち目はないですよね」

 そういったメンタルの強化を着実に構築できつつあると証明できたのが、前述した1月の世界選手権だった。

【次ページ】 「僕が一番ふざけてるんですけどね(笑)」

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