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大迫勇也もプレーした古豪の美学とは? 経営悪化で4部降格も、失わなかった最強の武器“育成”
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2021/03/10 11:00
1860ミュンヘンのようなクラブがあるからこそ、欧州サッカー界は裾野が広いともいえるだろう
「地に足をつけたクラブとして新たに」
「4部降格と聞いたとき、僕らは空っぽになった。でもいま僕らは新しいイメージを勝ち取り、地に足をつけたクラブとして新たに歩み出したんだ」
あるファンクラブ代表はそう話し、ロベルト・ライジンガー会長は「このクラブを愛し、支えてくれる人々に近いクラブに戻るチャンスだと思った」と、当時の心境を語っている。
まさに、ファンとともに成し遂げたプロリーグ(3部)への復帰だった。
1860ミュンヘンが3部復帰を決めた2017-18シーズンは、4部リーグ全体を熱狂が包み込んでいた。スポーツ系テレビ放送を行う『スポーツ1』では1860ミュンヘンのゲームを放送していたが、視聴者は20万人強。テレビ放送がなく、ライブストリームで中継という場合でも12万人以上が試合の行方を追いかけたという。どれだけ好きなんだ!
そんな1860ミュンヘンは今季、まずまずの戦いぶりを見せている。25節終了時で3位と勝ち点4差の6位。昇格の可能性を十分残している点も素晴らしいが、特筆すべきは今季トップチーム登録選手のうち実に17人が生え抜き選手という点だ。
前述したように、ここ最近で言うとA代表に選出されているノイハウスやウドゥオカイ、マックスらを育んだ1860ミュンヘンの育成は、どこが優れているのだろう。
「選手である前に1人の人間としてどうあるべきか」
クラブのU-12監督であるボルフガング・バルスにインタビューしてみると、「選手個々のパーソナリティの成長に丁寧に向き合っている」と明かしてくれた。
「選手である前に1人の人間としてどうあるべきかを常に考えさせる。言葉は大人からの一方通行ではなく、選手1人ひとりとじっくり向き合い、彼らの言葉に耳を傾ける。親に対してもオープンに接し、ともに道を探していく。そんな家族的な雰囲気の中で、選手が伸び伸びとチャレンジできる空気感を大切にしている」のだとか。
そうした姿勢の大切さを、具体的に、ダイレクトに、説得力を持って伝えていくために、世代間をつなぎ合わせる活動も積極的に行っているという。
「うちのクラブにはトップチームの選手が下の世代の選手を世話するシステムがあります。例えば、子供たちと一緒にトレーニングしたり、子供たちの質問に答えたりしています。ノイハウスやウドゥオカイといった選手たちは本当に親切に、一生懸命にやってくれます。小さい頃から調子に乗ることがなく、どんなときも『自分よりもっと上手いやつがいる』と謙虚でした。今の彼らがあるのは、そうしたパーソナリティのためだと思っていますし、地に足のついたところが彼らの共通点だったと感じます」(バルス)