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大迫勇也もプレーした古豪の美学とは? 経営悪化で4部降格も、失わなかった最強の武器“育成”
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2021/03/10 11:00
1860ミュンヘンのようなクラブがあるからこそ、欧州サッカー界は裾野が広いともいえるだろう
ベンダー兄弟、バイグルも出身者
ケビン・フォラント(モナコ)、ユリアン・バイグル(ベンフィカ)、スベン・ベンダー、ラース・ベンダー(ともにレバークーゼン)、最近A代表に招集されているフェリックス・ウドゥオカイ(アウクスブルク)、フロリアン・ノイハウス(ボルシアMG)、フィリップ・マックス(PSV)などなど。数多くのプロ選手、そして代表選手がこのクラブから巣立っているのだ。
苦しい状況に陥ると、生き残るために即戦力を獲得し、可能な限りの成績と考えがちになるが、1860ミュンヘンはその発想を逆転させた。いまこそ、自分たちのクラブで育った選手をトップチームで起用して這い上がるべきだ、と。
アリアンツ・アレナからこじんまりした本拠地へ
原点回帰を掲げ、4部からの再出発を決意した1860ミュンヘンは動いた。バイエルン・ミュンヘンと共有していたアリアンツ・アレナは分不相応と認め、それまで使用していたこじんまりとしたグリューンバルトスタジアムへ戻ることにした。
そんなクラブの姿勢を、ファンも全面的にバックアップした。そもそも、「大事なのは資金力じゃない!」と訴え続けていたのはファンだった。俺たちが心から欲しているのは、自分たちのアイデンティティを共有できるクラブ。それがファンの望みだった。
だからこそファンは、4部リーグからの再スタートとなってもスタジアムへ足を運んだ。実際、4部降格を機にクラブ会員を止めたのは200人。逆に、2カ月で会員数が2700人も増えたという。
現在クラブ会員は2万1000人で、アマチュア4部リーグの歴代記録を塗り替えている。バイエルンセカンドチームやアウクスブルクセカンドチームとのダービーマッチの際は、1万2500席のチケットが即座に完売してしまう。
決してモダンではないが、ファンの呼吸を間近に感じられて、熱気が心地よく反響する古き良きグリューンバルトスタジアム。大迫がプレーした当時右サイドで躍動的プレーを見せていたダニエル・ビエロフカは、監督となってクラブを3部昇格へと導いた。
「静かなホームゲームなんて思い出せない。ファンとの距離が近く、常に大音量が我々を包み込んでくれる。常に鳥肌が立つくらいだよ」(ビエロフカ)