マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「プロ野球からやがてスカウトがいなくなる」は本当か? ある球団関係者「人件費の見直しを考えている」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byGetty Images
posted2021/03/05 17:25
「プロ野球からやがてスカウトがいなくなる」関係者の証言は本当なのだろうか? ※写真はイメージです
アメリカの国土は広い。面積で日本のおよそ25倍に及び、球団数も30チーム。それぞれの球団が何層にもわたるファーム組織を有し、ドラフトで指名される選手の数も日本の100人弱に対して、メジャーは1200人を超える。
全米をいくつもの地域に区切った担当制を敷いているが、対象は中南米からカナダ、アジアにまで広がっており、一球団の活動能力ではまかないきれないという状況もある。つまり、球団のスカウト網と「情報提供組織」の両方がないと、カバーしきれないという事情があるという。
それ以上に大きな影響を与えたのが「セイバーメトリクス」だ。
「野球」におけるすべての要素を徹底的に「数値化」して客観的に捉えようとする手法。たとえば、アマチュア野球の選手なら、現状の能力から将来性、数年後の「予想図」を事細かな項目に分けて、すべて数値で表現してしまう。その総合成績で選手を評価する手法だ。
20年ほど前からメジャーでも採用され始め、結果として、チーム構成に大きく貢献した例もあるという。
練習を眺める「近所のおじさん」の正体
ボンヤリ聞いていると、結構尽くめの話に聞こえたのだが、一方で「ちょっと待てよ」とも思った。
スカウティングとは、人が人を探し当てることであろう。
人は「多面体」である。誰にでも見える「表」があって、一方で必ず「裏」の部分もあって、表でも裏でもない不可思議な「面」までいくつもあって。基本的な身体能力や技術、技能については「数値化」のほうが重宝するのかもしれないが、人間には決して数字の組合せでは見極めきれない複雑怪奇な「面」がある。
以前、あるグラウンドで遠くに見えたスカウトの姿は、ちょっと衝撃的だった。
ライトの向こうにちょっとした土手があって、そこにしゃがんでほおづえ突いて、ボンヤリ練習を眺めている男性が一人。近所のおじさんが、時間つぶしにやって来ているとしか見えないその「おじさん」がスカウトの方だったから、そこの監督さんと一緒になって驚いた。