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「ショート一本」だった中日・根尾昂はなぜ突然“外野起用”されたのか? べた褒め与田監督の思惑とは
posted2021/03/05 11:02
text by
小西斗真Toma Konishi
photograph by
Kyodo News
中日・根尾昂の起用法が大きく動いたのは、沖縄最終日の2月28日だった。アグレスタジアム北谷に楽天を迎えての練習試合が組まれていた。開始前のシートノックをレフトの守備位置で受けたのだ。
若手選手が複数のポジションを練習することなど珍しくはないのだが、そこが話題となるのが甲子園の申し子である。レフトを守ったのは根尾だが、守らせたのは首脳陣。つまり、この場合の「主語」は与田剛監督ということになる。
それまでの27日間は違った。むろん野球が団体競技である以上、各々のプレーヤーが好きなポジションにつくなどということはないのだが、根尾は本人の希望を首脳陣が受け入れる形で「ショート一本で」キャンプインした。
ショートを守る許可を出したのは首脳陣だが、その意思を示したのは根尾。つまり「主語」は根尾だった。全体メニューはもちろんのこと、早出や居残りで特守も連日ショートとしてこなした。だから28日のシートノックは「大きく動いた」ことになる。
ホークスに惨敗も野手の中では胸を張れる内容
残念ながらこの楽天戦は根尾は先発を外れ、試合も5回で降雨ノーゲーム。根尾の2021年外野手デビューは、福岡に場所を移した3月2日のソフトバンク戦となった。8番・レフトとしてフル出場。チーム全体でわずか3安打と日本一のホークスに歯が立たずに14失点の惨敗を喫するが、根尾は1安打、1四球。そのヒットで2点を挙げたのだから、野手の中では胸を張れる内容だった。
12点差をつけられてはいたが、オープン戦での投手はそれぞれの競争があり、結果を残そうと必死だ。根尾が打った8回は四球とヒットにバッテリーエラーが重なって、一死二、三塁という局面だった。開幕一軍をねらう左腕の川原弘之は、1点もやりたくなかっただろうし、そもそも昨シーズンまでの根尾は、川原に対して二軍で4打数4三振と歯が立たなかった。
ここはストレートでストライクを取りにくるであろうという投手心理。チャンスには初球を振っていこうというチームの基本方針。無理に引っ張るのではなく左方向に意識を置くスイング――。これらを理解した上でのタイムリーだと判断し、与田監督はべた褒めしていた。