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「プロ野球からやがてスカウトがいなくなる」は本当か? ある球団関係者「人件費の見直しを考えている」
posted2021/03/05 17:25
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Getty Images
私が「プロ野球スカウト」という職業を志したのは、その“特殊性”からすると、とても早かった。
中学卒業間際、「20年後の自分」みたいなテーマで作文を書かされた時、プロ野球スカウトに寄せる熱い思いを綿々と書き綴ったら、先生の中にその職業を理解できる人がおらず「採点不能」になった。書き直すように言われたのも懐かしい思い出だ。
それ以降およそ50年、いちずにその道を目指しながら、今こうした仕事に就いているのも、念願を叶えるための勉強だと考えて、日夜励んでいる。しかしとうとう、このオフもその「声」はかからず仕舞いだった。
そのスカウトという仕事が、いずれなくなるのでは……そんな衝撃的な話が耳に入ってきたのは、この春のキャンプも始まってまもなくの頃だ。
球団関係者「人件費の見直しを考えている」
「選手の年俸が高騰する中で、多くの球団が人件費の見直しを考えている。ターゲットになるのは球団スタッフ……現場のユニフォーム組のスタッフは物理的に必要だから仕方ないが、背広組は“合理化”できるというのが球団の考え方。中でもスカウト業務については、かなりアウトソーシングできるのでは、と考え始めている」
ある球団にとても近い人の言うことだったのと、そう言われてみれば、と思い当たることもあったので、妙に真実味があった。
昨年は、コロナのせいで夏まではほとんどアマチュア野球の現場がなかった。秋になり、ドラフトが近くなってから、去年初めて顔を合わせるスカウトの方も少なくなかった。
ドラフトが近づいていたから、「指名事情」を聞き出す場面もあった。
「いや、僕たちには、ほんとに、ぜんぜんわからないんです。誰を指名するのか……決めるのは上の人ですから」
書き文字にすると、とても素っ気なく聞こえるが、実際その場にいた者としては、スカウトの寂しそうな表情が忘れられない。
「スピードガン」から「ビデオカメラ」に変えた理由
マウンド上にプロ注目の怪腕、剛腕が現れると、ネット裏のスカウトたちがいっせいにスピードガンをマウンドに向けた……のは、数年前までのこと。今はスピードガンと同じぐらい、「ビデオカメラ」がグラウンドに向けられる。
マークする選手の一挙一動を映像におさめようと、スカウトたちの真剣な表情がネット裏に並ぶ。スカウトたちが選手のプレーを熱心に撮影する理由は2つあるようだ。