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「プロ野球からやがてスカウトがいなくなる」は本当か? ある球団関係者「人件費の見直しを考えている」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byGetty Images
posted2021/03/05 17:25
「プロ野球からやがてスカウトがいなくなる」関係者の証言は本当なのだろうか? ※写真はイメージです
あとで聞いたら、「裏が見たくて気配を消していた」と笑っていた。
見られているのがわかっていれば、たいていの人間は真面目にやる。数値化できるとしたら、人間のそういう「面」であろう。誰も見ていない場所でどれだけ真摯に鍛練に励めるのか……球団がいちばん知りたいのは“そこ”のところだ。
あるスカウトは身体能力抜群、技量優秀な選手の「多面性」を探りたくて、グラウンドの横の病院の屋上に上がり、「練習前」の彼の行動を確かめた。
その日は練習が休みであることを知っていて、無駄足覚悟でグラウンドに出掛け、そこにただ一人、バットを振り、懸命に走り込むその選手の「真実」をこの目で確かめたスカウトもいる。
スカウトとは、人間が人間を見極める貴い仕事のできる「人間」たちである。わずか800人ほどのプロ野球選手たちの卵を探し当て、球界に導く……そういう貴い仕事のできる人間たちだから、この国にたった100人かそこらしかいない。そういう職業なのだと思う。
「数値化」の進化と浸透はスカウティングという活動を劇的にわかりやすくしたことは事実であろう。
ただ、もう一方で人が人を探し当てるというとてつもなく難しい職分に必要なのは、いつの時代にも、人間の「叡智」にほかならないのではないだろうか。