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チームパシュートに大革命が起きて日本は…「団体追い抜き」なのに「追い抜かない」戦術って?
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byAFLO
posted2021/03/07 17:03
(左から)高木菜那、佐藤綾乃、高木美帆。新戦術がメジャーになると日本チームにも影響が出てくる
体力消耗の軽減よりも先頭交代時の減速回避
米国男子は、後ろの選手が前の選手の腰のあたりを押し続け、最後まで先頭交代をしなかった。そのスタイルは押すという意味の「プッシング」や「プッシュ」と呼ばれるようになった。
つまり、先頭交代による体力消耗の軽減というメリットよりも、先頭交代時の減速というデメリットを避けることにフォーカスし、なおかつ、これまでは先頭の速度が落ちるときに出現していた「押す」動きを、最初から戦術として利用するという発想の転換である。
新型コロナウイルス問題で20-21シーズンは開幕前から国際大会の中止発表が相次ぎ、世界の動向がわからない時期が続いたが、オランダ人であるヨハン・デビットHCが持つ最新情報により、日本も夏場から水面下で「プッシュ作戦」に着手していた。
「プッシュ作戦」で男子チームが好記録
こうして報道陣が目にすることになったのが、2月中旬に行なわれた全日本選抜長野大会(長野・エムウェーブ)中に非公認で開催されたチームパシュートのレースだった。
日本は男女とも先頭交代をしない「プッシュ作戦」を披露。デビットHCは「今季は国際大会(への派遣)がなく、チームパシュートのトレーニングがなかなかできなかった。今回は新しい戦術を試した。昨年からアメリカがやっている『プッシング』だ」と説明した。
「プッシュ作戦」で出たタイムに目を輝かせたのは、平昌五輪で5位に終わっていた男子チームだ。ウイリアムソン、一戸誠太郎、土屋陸の3人が組んだ男子(400m×8周)は3分39秒72。これは、ほぼ同時期にオランダ・ヘーレンフェーンで世界種目別選手権の代替大会として開催された試合のタイムと照らし合わせると、最上位クラスに匹敵する記録だった。
一方、日本勢が派遣を見送られて参加できなかった1、2月に、オランダでは無観客でいくつかの国際大会が開催され、欧州各国がそこに集って競い合っていた。