オリンピックへの道BACK NUMBER
レジェンド葛西紀明が1年ぶりの表彰台 強化指定から外れても貫いた「自分を信じて」
posted2021/03/08 06:00
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
JIJI PHOTO
3月3日、札幌市の宮の森ジャンプ競技場で札幌オリンピック記念スキージャンプ競技大会(ノーマルヒル)が行なわれた。
この試合で、葛西紀明が3位タイで表彰台に上がった。1回目、94mで12位につけた葛西は、天候の悪化した2回目で98mを飛んだ。ほかの選手が伸び悩む中、順位を上げての3位タイ。
「めちゃくちゃうれしいです」
喜びを露わにしたのも無理はない。
今シーズン初めての表彰台にして、昨年2月の雪印メグミルク杯で3位になって以来、386日ぶりの表彰台であったからだ。
レジェンドに忍び寄る危機
葛西のオリンピック出場は実に計8回を数える。2014年のソチ五輪のラージヒル個人で銀メダル、団体で銅メダル。さかのぼれば1994年のリレハンメル五輪のラージヒル団体でも銀メダルを獲得している。
30年以上、第一線で活躍を続けて現在は48歳、「レジェンド」と呼ばれて久しい。
ただ、近年は苦戦を強いられてきた。昨シーズンはワールドカップで30位以内に一度も入れないなど、調子が上がらなかった。そのため、昨年の5月には全日本スキー連盟の強化指定選手から外れた。
一方で、ワールドカップ個人最多出場試合数を569に更新したことに対し、冬季オリンピック出場回数に続くギネス世界記録認定証を受け取り、「記録を更新できるよう、これからも頑張っていきたい」とコメントしたのも同じ5月のことだった。
衰えぬ意欲を示したが、今シーズンは故障を除けば毎シーズン出場してきたワールドカップの遠征メンバーから外れた。危機と言えた。
復帰を期し、昨年12月にワールドカップより下位の大会であるコンチネンタルカップに出場。連盟は新型コロナウイルスの影響により、選手の派遣を見送っていたが、葛西が希望しての出場だった。
ここで好成績を残せばワールドカップのメンバーに戻る道が開けるところだったが、出場した2試合は32位と35位にとどまった。
それでも葛西は国内の大会で研鑽を重ね、ひとつの結果に結びついたのが今回の表彰台だった。