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チームパシュートに大革命が起きて日本は…「団体追い抜き」なのに「追い抜かない」戦術って?
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byAFLO
posted2021/03/07 17:03
(左から)高木菜那、佐藤綾乃、高木美帆。新戦術がメジャーになると日本チームにも影響が出てくる
プッシュはこれから世界の主流になっていくか
各国の動向をざっと見ると、男女とも1月のW杯1戦目ではまだ従来通りの先頭交代作戦で滑っている国が多かったが、第2戦になると先頭交代をしないプッシュ作戦で挑んだノルウェーが優勝した。強豪中の強豪であるオランダも、W杯では先頭交代方式で滑ったが、世界距離別選手権代替大会では先頭交代のない「プッシュ作戦」で挑んだという。
日本男子勢で最もチームパシュート歴の長いウイリアムソンは「プッシュはこれから世界の主流になっていく可能性のある作戦だと思う」と指摘している。
接触や転倒の危険もある中日本は
しかしながら、一方では慎重論も当然ある。なぜなら「プッシュ作戦」にはデメリットもあるからだ。デビットHCが指摘するデメリットは、選手間の距離が狭いことによる接触や転倒などのリスクだ。
実際に2月の長野でのレースでは高木菜那、佐藤綾乃、高木美帆の3人が組んだ女子(400m×6周)はレース中盤に選手同士が接触してあわやクラッシュの様相となってタイムをロスし、2分57秒27という平凡な記録に終わった。高木美帆によると「このタイムなら3位か4位だとデビットHCに言われた」という。
では、来季はどうするのだろうか。デビットHCは「危険もある中でどういったものが良いかを試しているところです。チームパシュートはリズムや選手同士の距離を保つことがとても重要。新しい作戦のメリットとデメリットを考えながらやっていきたい」という。
選手の配置も今後の検討課題だ。現在は男子の先頭がウイリアムソン、女子は高木菜那だが、まだテストが不十分なため、どの構成がベストなのかは定まっていない。
日本のお家芸ともいえるチームパシュート界を駆け抜けた衝撃。先頭交代のない「プッシュ作戦」という大革命は、今後のメダル争いを変えていくのだろうか。
1年後の北京五輪に向けて興味深い状況が生まれたチームパシュート。デビットHCの「日本がもっと速く滑れるという自信はある。恐れていない」という言葉を信じたい。
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