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「長瀬智也は人を殴れない」ドラマ『俺の家の話』の“名演技”を支える幼馴染のプロレスラーが明かす舞台裏
text by
高木圭介Keisuke Takagi
photograph byTBS
posted2021/03/05 11:01
ドラマ『俺の家の話』で主演・長瀬智也にプロレスの所作を指導するのは、小学校時代からよく知る間柄だというプロレスラー勝村周一朗だ
玄人にも好評だった長瀬のフォーム
撮影はまさに手作りの世界。勝村と練習を積んでいた長瀬は、プロレスの所作に高い適性を見せていた。当初は本職による吹き替えが検討されていたものの、長瀬の体格(182cm、80kg)と同じ実寸の本職はなかなか見つからない。仮に身長が同じであっても、大抵のプロレスラーは横幅が大きいため、長瀬の影武者は務まらない。ガンプロ選手たちと丁寧に動作を確認しつつ、技術や細かい所作が提案され、それを長瀬がリング上で本職相手に試しつつ撮影するという作業が積み重ねられた。
ドロップキックはかなり早い段階で習得。長瀬本人はダイナミックなフランケンシュタイナーを希望していたが、身長からくる適性などからティヘラ(ヘッドシザース・ホイップ)を採用。ミル・マスカラスの必殺技としておなじみ、コーナートップからのフライング・ボディアタックは当初、正面から飛ぶことになっていたが、本番を前に長瀬がコーナーに走り、そのままコーナートップへと飛び乗り、背面からクルリと体勢を入れ替えて飛ぶスタイルを披露したことから、そちらのフォームが採用された。
それは小学生時代の金曜夜8時からのゴールデンタイム、中学校に入ると土曜夕方4時からのプロレス中継に熱狂していた世代ならではの利点。もともとプロレス特有の所作が脳にインプットされていたからこそ可能だった。ボディアタックは素人がやると、恐怖心から手足が前方に出てしまいがちだが、手足より前に胸と腹を突き出して相手に激突するフォームは、何かとうるさい「黒帯」のプロレスファンたちからも好評だった。
堀コタツの動作もガンプロ仕込み!
また、さんたまプロレスの会長兼レフェリー・堀コタツ役の三宅弘城も、あまりに自然なレフェリングぶりに、本職と見間違えられがちだが、これもガンプロの木曽レフェリーの指導による賜物。宮藤官九郎の台本には技名こそ記されているものの、細かい技の動きの詳細に関しての記述はない。いわば現場に丸投げのため、撮影現場でああでもないこうでもないとアイデアを出し合って試行錯誤するのが恒例なんだとか。
長瀬演じるスーパー世阿弥マシンが、能の所作を活かして相手のリズムをことごとく破壊しつつ、有利に試合を展開させてしまうシーンは、インディマットでおなじみの、がばいじいちゃんのムーブが元ネタであり、また相手の足首を固めつつ、スネにかじりついてしまう「親不孝固め」はガンプロ所属・翔太の考案だった。