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「長瀬智也は人を殴れない」ドラマ『俺の家の話』の“名演技”を支える幼馴染のプロレスラーが明かす舞台裏
text by
高木圭介Keisuke Takagi
photograph byTBS
posted2021/03/05 11:01
ドラマ『俺の家の話』で主演・長瀬智也にプロレスの所作を指導するのは、小学校時代からよく知る間柄だというプロレスラー勝村周一朗だ
「智也にプロレスはできない。100%無理」
さんたまプロレスの幹部役としてレギュラー出演する長州力をはじめ、ドラマには武藤敬司や蝶野正洋ら業界のレジェンド勢もゲスト出演。特に武藤は早くも長瀬の才能に惚れ込み、撮影現場でも熱心にスカウトしていたそうだ。実際、四方から観客に「見られる」商売であるプロレスラーは想像以上に「リーチの長さ」が武器となり、また重要視される。天性の「華」とリーチを持つ長瀬は武藤でなくとも欲しい逸材であることは間違いない。
だが小学生時代から長瀬を知る勝村は「智也にプロレスはできない。100%無理」とはっきりと断言。フィジカル面の適性が高いことは認めつつ、長瀬のメンタル的な“弱点”をその理由に挙げている。
「智也は典型的な『人を殴れない性格』なんです。優しすぎる。思えば子どもの頃から喧嘩ができないタイプだった。格闘技でもプロレスでも、いざ『やらなきゃ、自分がやられちまう』ってスイッチが入ったら、躊躇なく人を殴れるタイプでないとこの仕事は務まらない。プロレスの練習をしてても、こっちがミットを持っていると、普通に凄く綺麗なフォームでパンチやキックを打てるのに、いざミットを外して生身で相手すると、もう遠慮しちゃう。これはもう先天的な性格でしょうね」
勝村自身、相手の攻撃を避けつつ、最短で相手を制圧することこそがミッションとなる総合格闘技の世界から、プロレスに参入することで、「相手の技を受ける」「間の取り方」といった、プロレスならではのギアチェンジの難しさを体験してきただけに、実感がこもった分析だ。
「智也本人も分かっていることですが、あれは段取りを決めて、カットも編集もあり、途中で水を飲んだり、休んだりもできる『演技』としての撮影だから、プロレスの動作ができるだけなんです。ほんの数カ月の練習だけで、実際のプロレスのリングに上がることなんて無理ですよ(笑)」
棚橋弘至の「面白かった」に救われる
勝村はプロレス監修を正式に引き受ける段階で、プロレスファンから「アイドルにプロレスごっこをやらせるとは何事か?」と批判を浴びることも警戒していた。ナーバスになるあまり、ネットなどでドラマの感想を見ることも断つと誓いつつ、木曽レフェリーともども、「会社(ガンプロ及び、DDTグループ)に迷惑がかかるようなら、辞める覚悟」で撮影に挑んでいたとか。
ところが第1回の放送終了後、日本プロレス界のトップ選手である棚橋弘至(新日本プロレス)がTwitterにて「面白かった」と発言してくれたことで、さまざまなネガティブな思いから救われることになった。