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「初恋みたいな存在」「どんな人生にもない感覚」フィギュア引退選手たちは何を語り、今後何をするのか
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byTsutomu Kishimoto
posted2021/02/21 17:02
3月に愛知県の大会への出場はあるものの、全国規模の大会はこの国体が最後となった日野。合計185.70点で3位に入った。
動物の飼育の専門家を目指す
氷へのタッチが柔らかく、たおやかなスケートで魅了してきた小林建斗(22)も、この日が最後の演技となった。宮崎郁コーチ、服部瑛貴コーチと、手をクロスさせる握手をしてから氷上へと送り出される。この日も、氷と一体化するようなイナバウアーやイーグルで会場を魅了した。引退後は専門学校に通い、動物の飼育の専門家を目指すという。
「今後の人生で何があっても『今年の全日本選手権で、俺は羽生君と一緒に滑ったんだ』と思えば何でも出来る気がします。僕にとってスケートは、自分の魅力を最大にアピールできる舞台でした。これからは全力で、大好きな動物の飼育員になれるよう頑張ります」
また小林と法政大で同期の小林諒真(22)も、有終の美を飾った。遅めの9歳でスケートを始めたものの、4回転まで辿り就いたジャンパーだ。今回も3回転+3回転に安定感があり、高さのあるジャンプとスピード感ある演技で、リンクを駆け抜けた。
「スケートを始めた年齢が遅かったので成績が出ない時期が長かったのですが、それでも負けたくない気持ちとスケートが好きな気持ちで、目標の選手達と戦えるまでになれました。スケートがあったから学業を頑張って、自分を律して生活してこれました。僕の心の拠り所でした」
引退のシーズンに国体初出場となった選手も
また引退後はコーチを目指す日大の唐川常人(22)も、最後の試合。力を入れずに滑っていくような滑らかさが印象的なスケーターだ。『イオ・チ・サロ』の音楽に身体を委ね、透明感のある演技をみせた。
「今日は今まで支えて下さった方々に囲まれて、演技前から感極まってしまいました。感謝の気持ちで滑ることができたと思います。これからはコーチを目指して勉強を続けて行きたいです」
一方で、引退のシーズンに国体初出場となった選手もいた。石川県の加賀谷厳行(22)だ。石川県は通年リンクがなくスケート選手が育っていなかったが、専門学校生の安江智広(19)の出場により「県から2名」の規定を満たし、石川県としては21年ぶりの国体出場となった。加賀谷は「コロナ禍で引退試合が無くなっていたので、国体に出られたことが本当に嬉しいです。僕は引退しますが、石川県の子供達が頑張って、また国体に出場できるまで頑張ってくれたらいいなと思いました」と話した。
青春をスケートに託してきた男達。自分の演技に思いを込めるだけでなく、仲間を思いやり、そして夢を後輩達に託す姿が見られた。スケートで流したすべての涙は、生きる力になる。彼らの次なる人生に、喝采を――。