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「初恋みたいな存在」「どんな人生にもない感覚」フィギュア引退選手たちは何を語り、今後何をするのか
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byTsutomu Kishimoto
posted2021/02/21 17:02
3月に愛知県の大会への出場はあるものの、全国規模の大会はこの国体が最後となった日野。合計185.70点で3位に入った。
「数年後には綺麗な思い出になってるんだから」
「草太はショートでの順位のことを謝ってきてくれたんですが、僕からは『明日もどうなろうが結局、数年後には綺麗な思い出になってるんだから、好きにやってよ。僕の最後の試合だからって気にしなくていいよ』と話しました」
一夜あけて、フリー。7番滑走で現れた山本は、昨季のフリー『In this shirt』に曲を変更していた。トリプルアクセルを降り、山本らしいノーブルな美しさの光る滑りで、会場を魅了する。希望の光をつかむような演技だった。リンクサイドで見ていた日野と抱き合い、2人でキス&クライに座る。127.10点でフリーは2位に挽回すると、山本はしっかりとした口調で話した。
「昨日は演技途中でやめてしまいそうで不安でしたが、日野君やたくさんの方々から言葉をいただきました。いつもは独りで戦う世界ですが、今日のフリーはたくさんのパワーを感じながら滑り切ることができました。日野先輩が違う道に進んでからも、今度は僕が中京大の先輩として、後輩達になにかを伝えていけたらいいなと思いました」
ステファン・ランビエルが以前に使用した曲
一方の日野は、19番滑走。今度は山本がリンクサイドに立って応援した。日野のフリーは、映画『トゥルーマン・ショー』。ステファン・ランビエルが以前に使用した曲で、ずっと使いたかったという。4回転は転倒したものの、トリプルアクセルは降りる。万感の思いをこめたステップシークエンスで、音楽と一体化した。124.52点、総合185.70点で3位となった。
「演技後、皆が立ち上がって拍手してくれていて『引退って、ああこういう感じなんだな』と思い、次の選手がいるので早く滑らせてあげたい気持ちと、ごめんもうちょっとだけ味わわせて、という2つの間の気持ちでした」
そしてスケート人生を振り返る。