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「初恋みたいな存在」「どんな人生にもない感覚」フィギュア引退選手たちは何を語り、今後何をするのか 

text by

野口美惠

野口美惠Yoshie Noguchi

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photograph byTsutomu Kishimoto

posted2021/02/21 17:02

「初恋みたいな存在」「どんな人生にもない感覚」フィギュア引退選手たちは何を語り、今後何をするのか<Number Web> photograph by Tsutomu Kishimoto

3月に愛知県の大会への出場はあるものの、全国規模の大会はこの国体が最後となった日野。合計185.70点で3位に入った。

山本の葛藤を一緒に背負っていた日野

「草太は彼自身の芯がある選手なので、自分から率先して助言することはめったに無いんです。でも珍しく『何か思っていることがあったら教えてください』と連絡がきて。色々話し合っているうちに、草太がフリーを昔のものに戻そうかと思い始めていたので、僕も『今はそのほうが良いよ』と背中を押した感じでした」

 日野自身もショートの曲変更を決めていた経緯もあるだろう。初心に返りたいとき、スケートへの情熱を確かめたいとき、過去のプログラムは当時の自分から届く勇気になる。

 山本の葛藤を一緒に背負っていた日野は、山本の演技をじっと見つめていた。しかし山本は迷いのあるままショートに登場。すべてのジャンプをミスしたうえ、スピンも0点になったものがあり、43.38点で18位発進となってしまった。

「不安がすごく大きくて、これほど試合中に『途中でやめたい』と思ったのは初めてでした。去年のNHK杯(11月)くらいから周りとの差を感じ始めて、全日本選手権が終わったことで正直になって『こういうレベルまで落ちたんだな』と感じてしまいました。アスリートとしてやっていけるのかな、というのを正直感じています」

 茫然自失のまま、そう語る山本。それでも最後の気力を振り絞るようにこう話した。

日野のほうから山本に声をかけた

「日野君は、僕が中1のときに名古屋に拠点を移してからの先輩。怪我をして大変なときもゴハンに誘っていただいて、お世話になってきました。日野君が引退の国体なので、足を引っ張らないように、明日のフリーは諦めずに出来たらなと思います」

 その夜、試合が終わったのは午後9時過ぎと遅かったが、日野のほうから山本に声をかけた。山本はその夜のことを、こう語る。

「遅い時間だったけど、日野君が一緒に買い出しに行って、(夕食を)食べてくれて。彼がいなかったら、独りで部屋に帰って落ち込んでいたかもしれません。たくさんの励ましの言葉をもらいましたし、他にも色々とたわいもない会話をたくさんしてくれました」

 一方の日野は、こう話す。

【次ページ】 「数年後には綺麗な思い出になってるんだから」

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