フィギュアスケートPRESSBACK NUMBER
「初恋みたいな存在」「どんな人生にもない感覚」フィギュア引退選手たちは何を語り、今後何をするのか
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byTsutomu Kishimoto
posted2021/02/21 17:02
3月に愛知県の大会への出場はあるものの、全国規模の大会はこの国体が最後となった日野。合計185.70点で3位に入った。
「自分を上から見ているような、どんな人生にもない感覚」
「試合では降りられなかったんですが、練習で4回転ジャンプを降りることが出来たことが一番の幸せだったと思います。子供の頃にテレビで見た世界に自分が入っているような、自分を上から見ているような、どんな人生にもない感覚。フワっと浮いて、跳べる時は簡単なんです」
引退後は、スケート以外の仕事に就くという。
「自分がどんな人間か知りたいという理由で、スケートから離れます。社会に出たら打ちのめされる時もあると思いますが、乗りこえていきたいです」
一方で、『トリプルアクセルを跳べる社会人スケーター』として名を馳せてきた山田耕新(29)も、引退の日を迎えた。山田はショート、フリーともにトリプルアクセルに挑戦。特にフリーは、7つのジャンプすべてで転倒がなく、グラついても踏ん張る。リンクサイドに集まった関係者から、敬意と感嘆の拍手が起きた。
「もっと良い演技で決めたかったんですが、耐えて耐えて、耐え忍んで形にするというのが自分らしかったかなと。人間らしさが出るスポーツだなと改めて思いました」
6年間、仕事とスケートを両立してきた
山田は22歳で引退後、1年のブランクをへて復帰。6年間、仕事とスケートを両立し、多くの選手や関係者に勇気を与えてきた。
「復帰してからのほうが、自分で色々なことを理解して技術に落とし込みながらやって来れたので、この6年は楽しかったです。大した成績は残していませんが、後輩達には『社会人として働きながらでも競技できる』ということは声を大にして言いたいです。それくらいしか出来なかったです」
濱田美栄コーチから「前に進むことが大事」という言葉と共に花束を渡されると、「この一歩を大切にした人生にしていきたいです」と誓った。
その山田をリンクサイドで見つめていたのは、同じ福岡代表の中野紘輔(23)だ。フリーでは2本のトリプルアクセルに挑戦した。雄大な3回転ルッツが持ち味の、スピード感溢れる選手だ。演技後は思わず目頭をおさえた。