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小林陵侑「絶望しか感じられていない」不調も… レジェンド葛西紀明に並ぶW杯17勝、もがいて見つけた答え
 

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長谷部良太

長谷部良太Ryota Hasebe

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posted2021/02/17 11:01

小林陵侑「絶望しか感じられていない」不調も… レジェンド葛西紀明に並ぶW杯17勝、もがいて見つけた答え<Number Web> photograph by AFLO

スキージャンプ日本の伝統を継ぐ小林陵侑。W杯17勝は葛西紀明と並ぶ偉大な成績だ

小林の口から「絶望」という言葉を初めて聞いた

 筆者は小林がW杯遠征を本格的に始めた2016~17年シーズンから取材を続けているが、過去の膨大な取材メモの中に「絶望」という言葉が出てきたことは1度もなかった。

 場数を踏みながら徐々に世界との戦いに慣れ、一気に才能を開花させたのが2018-19シーズン。W杯初勝利を含む計13勝をマークし、日本男子初のW杯総合王者に輝いた。昨季は3勝だったとはいえ、1桁順位に入ることが多く、計28戦の総合得点では3位に入った。それが、今季序盤はトップ10の壁も破れず、もがき苦しんでいた。

 それでも、12月下旬になるとようやく好転し始め、不安定だった助走路の姿勢が固まってきた。

 はっきりと復調への手応えを感じられたのが、元日に行われた伝統のジャンプ週間第2戦、ドイツ・ガルミッシュパルテンキルヘン大会。今季初のひと桁順位となる7位に入った。飛躍の得点は1回目が7位、2回目は6位。2回ともトップ10に入る得点をマークしたのは今季初めてだった。

 ジャンプ週間前のトレーニング中、助走姿勢を組んだ際に肩に力が入っていることに気づき、リラックスを心掛けたことが突破口になった。ほんのわずかな違いが、大きな飛距離の差につながるのがジャンプの難しさでもあり、面白さでもある。そこに気づける選手だけが、厳しい戦いを生き抜いていける。

ジャンプの“3要素”が定まらなかった中で

 ジャンプは大ざっぱに言うと、(1)速度を出すための助走姿勢(2)踏み切る際のタイミング、強さや方向(3)適切な飛行姿勢への素早い移行の全ての要素がかみ合うと飛距離が伸びやすい。中でも最も重要と言われ、多くの選手が苦しむのが助走姿勢。小林はシーズン前の調整不足もあり、今季序盤は助走姿勢が定まらなかった。それでも、実戦を重ねることによって試行錯誤を繰り返し、ついに答えを見つけた。

 こうして小林は「レジェンド」葛西と並ぶW杯17勝目を手にした。まな弟子の活躍をしっかり気にしている葛西からは、「おめでとう」とLINEにメッセージが届いたという。

【次ページ】 次なる目標は“2年前に失速した”世界選手権での雪辱

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