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“藤井聡太の大逆転”で思い出す 将棋史に残る伝説の逆転劇<7選>「羽生善治対渡辺明、100年に1度の大勝負も」 

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相崎修司

相崎修司Shuji Sagasaki

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2021/02/17 17:01

“藤井聡太の大逆転”で思い出す 将棋史に残る伝説の逆転劇<7選>「羽生善治対渡辺明、100年に1度の大勝負も」<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

準決勝と決勝を大逆転で勝ち、3度目の朝日杯優勝を果たした藤井二冠

(4)「見えない影におびえていた」谷川浩司の回想【1992年】

 中原時代の後を継いだのは谷川浩司九段。21歳の史上最年少名人は、藤井聡太をもってしても破ることが出来るかどうかの記録だろう。だが谷川の予想をはるかに上回る速さで後輩が駆け上ってきた。羽生善治九段である。

 1992年に行われた第5期竜王戦七番勝負は、前述の高野山の決戦と同じく、あるいは将棋界の歴史を左右した一戦だったと言えるかもしれない。竜王・王将・棋聖の三冠を保持する谷川に、王座と棋王の二冠を持つ羽生が挑戦。両者のタイトル戦は2年前の竜王戦以来、2度目のことだった。その竜王戦は4勝1敗で挑戦者の谷川が勝ち、羽生から竜王を奪っていた。

 立場を入れ替えての七番勝負は、第1局の終盤で谷川の妙手順が炸裂した。続く第2局も谷川勝利、第3局で羽生が一矢を報いて、第4局を迎える。

 形勢は谷川必勝。だが勝ち急ぎの悪手が出た。「見えない影におびえていたとしか思えない」と後日に谷川は振り返っている。

 3勝1敗になるはずが2勝2敗のタイに。続く第5局も羽生の勝ちで、谷川は一気に徳俵へと追い込まれる。それでも第6局は第1局のそれに匹敵する光速流の寄せを発揮し、最終局へ持ち込んだ。

 だが第7局。谷川はまたも終盤のミスで好局をフイにしてしまう。ここから対羽生戦のタイトル戦7連敗が始まった。95年の第44期王将戦で連敗こそ止めるも、翌年再び挑戦してきた羽生に王将を明け渡し、七冠独占を最も近い位置で目の当たりにすることになってしまった。

(5)「じゃあ佐藤君、君は詰むと思うのかい」谷川の復位【1997年】

 谷川が復活を果たしたのは96年、第9期竜王戦である。羽生に挑戦し初戦は落としたが、第2局で「自身最高の妙手」という一着を指して快勝、そこから4連勝で竜王奪回を果たした。A級順位戦も8勝1敗の好成績で、97年の第55期名人戦で羽生に挑む。

 その第1局の最終盤。谷川が羽生玉に迫った。問題はこれが詰めろ(相手が何もしなければ次に詰む状態)かどうかである。詰めろでなければ羽生が谷川玉を攻めて勝つ。

 谷川は指した直後に詰めろでないことに気づいたという。だがおくびにも出さない。気づかれたらおしまいであるからだ。

 15分後、羽生の指した手は受けだった。この瞬間に事実上谷川の勝ちが決まった。問題の局面に関して検討陣も詰めろではないという結論を出したそうだが、心の片隅に「でも羽生―谷川戦だから」という意識があったのではないか。

「おかしいですよね、絶対におかしい。詰むに決まってます」
「じゃあ佐藤君、君は詰むと思うのかい」
「いや思いません、でもおかしい」

 当時、先崎学九段が連載していたエッセイで触れられた佐藤康光九段とのやりとりである。

 接戦を制した谷川はこのシリーズを4勝2敗で制して名人奪回、十七世名人の資格を得た。

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