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“藤井聡太の大逆転”で思い出す 将棋史に残る伝説の逆転劇<7選>「羽生善治対渡辺明、100年に1度の大勝負も」 

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相崎修司

相崎修司Shuji Sagasaki

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2021/02/17 17:01

“藤井聡太の大逆転”で思い出す 将棋史に残る伝説の逆転劇<7選>「羽生善治対渡辺明、100年に1度の大勝負も」<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

準決勝と決勝を大逆転で勝ち、3度目の朝日杯優勝を果たした藤井二冠

(7)「羽生の首ががくりと落ちた」27年ぶり無冠に【2018年】

 羽生が永世七冠を実現したのは17年の第30期竜王戦。その相手は奇しくも9年前に苦杯を喫した渡辺だった。偉業達成の瞬間を観戦記者として最も間近で見ることができたのは筆者の人生でも1、2を争う幸運だと思っている。

 この勝利で羽生は自身の通算獲得タイトル数を99期とした。翌18年の防衛戦に100期が掛かることになる。挑戦者として名乗りを上げたのは広瀬章人八段だ。

 七番勝負は羽生から見て○○●●○●という星取りで、最終第7局となる。直前の第6局は竜王戦史上最速の終局となる広瀬の完勝劇だったことは、通算100期への黄色信号だったかもしれない。また第3局と第4局がいずれも逆転負けで「どちらかを勝っていれば……」というファンのタラレバもあったか。

 最終局は常に形勢難解だった。ただこれまで紹介してきた逆転劇と比較して、明らかに違うのが将棋ソフトの存在だ。動画中継では評価値が表示され、控室でもソフトが動かされている。

 前年に続いて歴史的対局の観戦を担当する機会に恵まれた筆者は、検討陣の意見を聞きつつ、将棋ソフトの評価値も確認していた。

 評価値はやや羽生に振れていた局面で、羽生がある一手を指す。その手を見た瞬間に広瀬は逆転の筋を感じ取ったという。事実、将棋ソフトもこの一手で評価値が急落した。その数手後の局面で「羽生の首ががくりと落ちた」と、当時の筆者の取材メモに書いてあった。

 羽生が投了したのはそれから2時間ほどのことだっただろうか。タイトル通算100期が成らなかったのと同時に、27年ぶりの無冠へ転落した瞬間でもあった。筆者のメモは「玉寄ってからハッキリしちゃったんですね」という羽生の言葉で締められていた。

 現在、タイトル戦など主要な対局はほとんど将棋ソフトの評価値付きで動画中継されている。それは視聴者にとって「どこで逆転したかがすぐにわかる」ことを意味している。これが是か非かは何とも言えない。ただ「逆転のゲーム」である将棋の魅力が色あせることはないだろうと思う。それは「ソフト後」でもファンを引き付けている藤井聡太をはじめとする現在の棋士の戦いを見れば明らかであるはずだ。

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